私の「光健士(ひかるけんし)」くん~社内で孤立の二十九歳主任を慕い、ひたすら尽くして応援する十八歳のアルバイトくん
キッスしようよ
恭子は自分の右手の甲を、健士の唇に近づけた。恭子の右手の白い肌が、健士の唇にそっと触れる。
それから健士の右手首をつかみ、自分の顔に近づける。健士の右手の甲に、恭子の唇を重ねる。
唇を離したとき、幸せいっぱい、夢いっぱいに満ち溢れた健士の表情が目の前にあった。恭子の胸の中も同じだった。
(こんなに私からのキッスを喜んでくれるなんて)
この瞬間、「あなたの広告会社」の営業企画部第一グループ主任・杉野恭子は代わった。もちろん会社で孤立して社長、上司、部下から嘲笑されている現実に変わりはない。
けれども今、恭子には、自分を精一杯応援してくれて、心いっぱい愛してくれる人間がいる。もうひとりぼっちじゃない。
「日下くん。私がこうやってキッスしたくなったら、いつでもしてくれる?」
「はい、僕は杉野さんの応援団です。いつだって僕、杉野さんのために……」
健士が大きくうなずく。固い決意を秘めて言葉を続ける。
「杉野さん、お願いです。椅子に座ってください」
理由なんて聞かない。聞く必要なんてない。恭子は主任の椅子に深く腰を下ろす。健士の顔を正面からしっかりと見つめる。そのまま健士のために、そっと両目を閉じる。
甘酸っぱい香りが近づいてくる。まだ青いミカンのように酸っぱい香りが鼻腔に吸い込まれていく。酸っぱい香りの中に、ほんの少しだけ甘ったるい香りが恥ずかしそうに隠れている。青い果実の魅力というのは、ほんのわずかの甘みが、媚薬のように強い刺激を体いっぱい与えてくれることにある。
ほんの短い期間しか味わうことの出来ない青い果実の味覚を、今、この瞬間、恭子は受け入れれようとしている。
フワフワ柔らかい健士の唇が、ピンクのルージュを塗った恭子の唇に重なる。そっと重ねただけなのに、健士の全てが恭子の体内にゆっくりと吸い込まれていくような陶酔感。恭子はそのまま健士を抱きしめていた。
(もうこの子は、私の彼氏なんだ)
絶対に揺らぐことのない強い思いが、今、恭子の心に湧き上がる。そっと唇を重ねたまま、ストッキングを履いた膝の上に小さな健士の体を乗せた。ストッキングごしに感じる健士の柔らかい体が心地よい。
恭子は全身がじわじわと熱くなっていくのを感じていた。
(『一千年前の恋 源氏物語の世界展』、必ず立派な企画書をつくってみせる。松山主任なんかには負けない。本当の広告代理店の仕事を彼に教える絶好のチャンスかもしれない)
恭子がそう心の中で決意しているときだった。健士が真剣な表情を向けてきた。
「あの、僕、杉野さんが企画書に専念できるように応援させて頂きます。夕食と朝食をですね、どうか、僕につくらせてください。ただ昼食は顧客の人たちと一緒に摂ることも多いみたいですから遠慮させて頂きます。こ、これ、夕食のメニューです。朝食は和食、洋食、どちらにされるかで変わってきます。ご希望をおっしゃってください」
それから健士の右手首をつかみ、自分の顔に近づける。健士の右手の甲に、恭子の唇を重ねる。
唇を離したとき、幸せいっぱい、夢いっぱいに満ち溢れた健士の表情が目の前にあった。恭子の胸の中も同じだった。
(こんなに私からのキッスを喜んでくれるなんて)
この瞬間、「あなたの広告会社」の営業企画部第一グループ主任・杉野恭子は代わった。もちろん会社で孤立して社長、上司、部下から嘲笑されている現実に変わりはない。
けれども今、恭子には、自分を精一杯応援してくれて、心いっぱい愛してくれる人間がいる。もうひとりぼっちじゃない。
「日下くん。私がこうやってキッスしたくなったら、いつでもしてくれる?」
「はい、僕は杉野さんの応援団です。いつだって僕、杉野さんのために……」
健士が大きくうなずく。固い決意を秘めて言葉を続ける。
「杉野さん、お願いです。椅子に座ってください」
理由なんて聞かない。聞く必要なんてない。恭子は主任の椅子に深く腰を下ろす。健士の顔を正面からしっかりと見つめる。そのまま健士のために、そっと両目を閉じる。
甘酸っぱい香りが近づいてくる。まだ青いミカンのように酸っぱい香りが鼻腔に吸い込まれていく。酸っぱい香りの中に、ほんの少しだけ甘ったるい香りが恥ずかしそうに隠れている。青い果実の魅力というのは、ほんのわずかの甘みが、媚薬のように強い刺激を体いっぱい与えてくれることにある。
ほんの短い期間しか味わうことの出来ない青い果実の味覚を、今、この瞬間、恭子は受け入れれようとしている。
フワフワ柔らかい健士の唇が、ピンクのルージュを塗った恭子の唇に重なる。そっと重ねただけなのに、健士の全てが恭子の体内にゆっくりと吸い込まれていくような陶酔感。恭子はそのまま健士を抱きしめていた。
(もうこの子は、私の彼氏なんだ)
絶対に揺らぐことのない強い思いが、今、恭子の心に湧き上がる。そっと唇を重ねたまま、ストッキングを履いた膝の上に小さな健士の体を乗せた。ストッキングごしに感じる健士の柔らかい体が心地よい。
恭子は全身がじわじわと熱くなっていくのを感じていた。
(『一千年前の恋 源氏物語の世界展』、必ず立派な企画書をつくってみせる。松山主任なんかには負けない。本当の広告代理店の仕事を彼に教える絶好のチャンスかもしれない)
恭子がそう心の中で決意しているときだった。健士が真剣な表情を向けてきた。
「あの、僕、杉野さんが企画書に専念できるように応援させて頂きます。夕食と朝食をですね、どうか、僕につくらせてください。ただ昼食は顧客の人たちと一緒に摂ることも多いみたいですから遠慮させて頂きます。こ、これ、夕食のメニューです。朝食は和食、洋食、どちらにされるかで変わってきます。ご希望をおっしゃってください」