私の「光健士(ひかるけんし)」くん~社内で孤立の二十九歳主任を慕い、ひたすら尽くして応援する十八歳のアルバイトくん

裁きの刻限

 自宅謹慎から二週間後。恭子は午後一時からの全体人事会議に出席するため、久しぶりに出社した。営業企画部第一グループの事務室には顔を出さず、そのまま会議室に向かう。
 健士には自宅謹慎になった夜、改めて事実だけを伝えた。健士との関係が問題化したことは何も告げなかった。健士はアルバイトに来て恭子の姿が見えないのを知り、終業時間になるとあわてて恭子の自宅を訪ねて来た。
 恭子は「企画書原案」のファイルを健士に渡した。せめてもの健への気持ちだった。
 健士は泣きながら恭子の家を出ていき、そのまま連絡が取れなくなった。せめてひと目だけでも会っていたら、まだ力が湧いてくるのに……。
 長い廊下を力なくゆっくり歩いて会議室に入る。
 社長以下重役メンバーが口の字型に並べられた机に列席。そして会議室の隅に椅子が並べられ、第一グループの社員が全員が座っていた。部屋中が氷のように冷たく、身を切るように寒かった。

「主役のおでましか」

 大橋社長が低い声で言う。恭子は自分の席に起立したままうつむいた。

「それではそろそろ始めようか。高木部長、頼みますよ」

 高木部長が書類を手に立ち上がる。いよいよ引導を渡される刻限が来た。
 恭子は健士とのツーショットを心に浮かべる。心の中に健士がいれば、きっと耐えられる。恭子はそう信じようとした。

 

 
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