あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
ベッドを整え終えたアメリとマーサは、目配せして部屋を出ようとする。

「整え終えましたので、私たちは失礼いたします」
「あ、お待ちください。メイド長」

 さっさと退散しようと思ったのに、ジャイルズ伯爵が近寄ってくる。
 嫌な予感がして、アメリは思わず目をつぶった。

「どうか、ルーク様の侍女になっていただけませんか」
「ひっ、無理っ」

 思わずつぶやいて、恐る恐る目を開けると、ジャイルズ伯爵が向かい合っているのはマーサの方だった。

「ほら、ルーク様。この方くらい年配の女性なら、いいでしょう?」

 ジャイルズ伯爵はアメリの脇を素通りし、マーサに向かって話していたのだ。

(か、勘違いだわ。恥ずかしい……)

 思わず真っ赤になってうつむくと、マーサのため息が聞こえてきた。

「閣下付きの侍女というのは光栄なお誘いですが、私にはメイド長としての責務がございます。この城に数多くいるメイドの仕事の指示を一手に引き受けている私の代わりを務まる女性もまだおりません。それに、閣下の側付きとなる女性は、身分も考慮しなければなりません。良ければ、別の女性を選ばせていただきます。ご一任いただけますか?」

 冷静に答えるマーサの言葉を遮るようにルークが言った。

「いや、決めた」

 つかつかと近寄ってくると、アメリの前で止まる。

「彼女でいい」

 あろうことか、ルークの指はアメリを差しているではないか。

「わ、私ですか?」
「そうだ。お前、名前は?」
「アメリ……です」
「さっき『嫌だ』と言っただろう。聞き逃してはいないぞ」

 ぎくりとして、一歩下がる。ルークの視線は、矢のようにアメリを捕らえて離さない。アメリも、怖くて視線を逸らせなかった。
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