処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
《そいつ、多分ベリトだよ。褐色の肌をした細目じゃなかった?》
「そうだ。こう、目は吊り上がっている」
《あいつは人に憑く悪魔だよ。錬金術で、他の鉱石を金に変えることができる。……といっても偽物だけどね。時間が経つと元の鉱石に戻る。十年前、奴は公王に取り憑いて、この国をめちゃくちゃにしたんだ》

 フローが怒りをあらわにしたまま続けた。

《僕の精霊石。あいつはそのエネルギーをもとにして、錬金術を使っている。僕と精霊石はつながっているから、僕はそのたびに力を奪われているんだ。今日、あいつが漆黒の肌の男に憑いているのを見たんだよ。そいつがカーヴェル卿だ》
「そうなの? だったら今回も大変じゃない」

 カーヴェル卿の金細工が流通して、もし他国にまで渡ったら、もう世界的な詐欺事件となってしまう。今の国力では、他国から糾弾されたらこの国は持たない。

「それは……まずいな……」

 ルークが唇を噛み締めてつぶやく。

《精霊石があいつの手にある以上、僕がルークやアメリにいくら力をもらっても、すぐに奪われてしまうんだ。だから……》
「精霊石を奪い取れればいいってこと?」

 アメリのつぶやきに、ルークが視線を向けた。

「そうよね? ベリトは今、フローの力を好きなだけ使える状態にあるんだもの。それを堰き止めるしか手はないんだよね?」
《そう》
「ちょっと待ってくれ。精霊石ってのはどういうものなんだ?」

 ルークがフローとアメリの会話に割って入る。

「フローの力が込められているフローライトです。巫女姫が不在の時代には、精霊石の力でこの国を守っていた……んだよね?」
《ああ。巫女姫不在の間も、鉱石が採れるようにと、長年かけて力を注いできたものなんだ。十年前に王によって奪われ、ベリトに呪いをかけられた。フローライトが変色するという怪現象が起こるようになったのはそのせいだよ。おかげで人はフローライトを愛する心を失って、僕は人の想いも得られなくなり、どんどん力を失っていった》

 そこまで言うと、フローはパペットの中へと入った。パペットが命を得たかのように起き上がり、飛び上がる。
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