あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「だったら、どうして」
「俺は、女は苦手だ。不用意に近づいてくる奴がいたら、どんな怪我をさせるかわからん。しかし、ロバートも引く気が無いようだからな」

 ロバートとはジャイルズ伯爵のことだ。アメリはちらりとジャイルズ伯爵の方を見た。悪気なくヘらへらしているのを見て、若干の苛立ちが湧き上がる。

「どうしても女の側仕えをつけろというなら、俺を苦手と思っている女がいい」
「な、なぜ」

 アメリの問いかけに、ルークはにやりと笑い、一歩近づく。アメリは恐ろしくて三歩ほど一気に下がった。

「そういうところだ。俺が嫌だと思っているだろう? そんなやつなら、必要以上に寄ってくることはないだろうからな」
「そ、そんなぁ」

 なんてひどい言い草か。アメリは真っ青になる。
 しかしルークはもう決定事項とばかりに、マーサに話を振った。

「そういうことだ。いいだろう? メイド長」
「……アメリはたしかに仕事は早く、長く勤めているから信頼もできます。ただこの子は孤児でして、王族に仕えるには身分が……」
「身分はどうでもいい。むしろ低い方がいいだろう。仕事を無くしては生きて行けないくらいの方が、裏切りを心配しなくていい」

 ルークは容赦なく言い放つ。
 これまで、彼のことはクールだけれど平等な心を持つ為政者だと思っていたが、印象が変わった。悪い意味でいい性格をしている。先ほどジャイルズ伯爵が、彼のことを『人の心を持っていない』と言っていたのは当たっていそうだ。
 ルークはアメリの前に指を突き付ける。

「いいか。今日からお前は俺の侍女……いや、雑用係だ。部屋付きメイドの仕事と、従者のやっていた雑務を任せる」
「ちょ、それは過重労働では?」
「その分、給金をあげてやれ。いいな? ロバート。賃金や待遇に関してはお前に任せる。お前は俺と違って、女には優しいからな」
「人聞きの悪い言い方をしないでください。私は妻一筋ですよ」

 ジャイルズ伯爵が論点のずれた反論をし始めた。
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