処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
翌日、アメリは体調が悪いと言って、仕事に出てこなかった。
「なんですか、ルーク様、その格好は」
シャツを無造作に着込んだルークに、ロバートが不満を漏らす。
「うるさい。アメリがいないんだ。仕方ないだろう」
「前に選んでもらった通りに着ればいいでしょうが」
「嫌だ。別に裸じゃなければなんでもいい」
アメリがいないのに、着飾る意味もない。これが駄目だど言うなら、彼女を呼んでくればいいのだ。
「はあ。なにを子供みたいなことを言っているんですか」
ロバートはあきれたようにため息をつくと、思い立ったようにルークを指差した。
「わかった! ルーク様、もしかして、アメリと喧嘩でもしたんでしょう。それで拗ねていらっしゃる?」
こんな浮かれ恋愛脳に言い当てられるのは最悪だが、間違ってもいないから仕方がない。
ルークは、アメリの反応に困り果てているのだ。
巫女姫の娘だというのなら、その権利を復活することで喜ぶと思っていたのに、アメリは少しも喜ばなかった。
この三年間、ルークは必死にやって来た。自国を追いやられた民が不憫で力を貸したのだし、王となったからには、彼らが住みやすいと感じる国にしてやりたいと思っていた。
どうせ、ルークはレッドメイン王国では必要のない人間だ。恋人がいるわけでも高い志があるわけでもない。この力を貸すことで、自分が役に立つのならそれでいいと思っていた。
しかし、いざ公国を占領し、王家の人間を処刑して、新たな国づくりをと考えたところで、ルークは途方に暮れた。
この国には、民を潤すために必要な産業が無かったのだ。
国土の半分が鉱山なのに、採れたフローライトは変色して商品にはならない。ここ十年でそれまでの蓄えも使い尽くし、本当になにもなかったのだ。
王が大きな抵抗もなく死を受け入れたのも、自分たちでこの国を復興させる目途がつかなかったからかもしれない。
『巫女姫様がいてくだされば』
復興の途中、民のそんな声を、ルークは何度も聞いた。