処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 ルークはまず庭に出ると、花壇から花を一本拝借する。その後、騎士団詰め所の裏を回って、使用人棟のほうに回った。
 アメリの部屋は、使用人棟の一階、西側の部屋だ。

《あれ、ルーク》

 明るいからか、姿はよく見えなかったが、フローの声がした。

「フローか? 昨日より姿が見えづらいが」
《ベリトに常に力を奪われているからね。人の形を保つには余剰の魔力が無いと》
「そうか。……なあ、アメリの具合はどうだ?」
《心配しなくていいよ。サボりだもん。昨日っから変なんだけど。ルークのせい?》
「どうかな」

 ルークは肩をすくめた。
 あの真面目なアメリが、サボるとはよっぽど腹に据えかねたのか。

《協力しようって誓ったその夜に喧嘩するとか、人間はたまに馬鹿みたいだね》

 フローが笑っている。ルークはバツが悪くて肩をすくめた。

「なあ、なぜアメリは女王になりたくないんだ?」
《そんな提案をしたの? アメリは完全に平民育ちだよ? 荷が重いに決まっているじゃん》
「だが、フローの声が聞こえるんだ。巫女姫の器だろう」
《それならルークもじゃん》

 ルークは目を見開く。そう言われてみればそうだが、巫女姫という名前からも、自分がなるというイメージはなかった。

《アメリに、この国を背負わせるのは気の毒だよ》
「どうしてだ?」
《アメリの母親──ローズマリーは、この国に不幸にさせられたからさ。巫女姫だから、結婚もできない。相手の男は殺され、自分は足を切られて自由を奪われた。その原因の一端である僕を、少しも恨まなかったと言ったら嘘じゃない? 僕のせいじゃないとしてもさ》
「それは……」

 そうかもしれない、とルークも思う。
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