処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「……フロー、これをアメリに渡してくれないか」

 ルークは先ほど摘んだ花を差し出す。

《無理だよ。僕、この姿の時はなにも持てないもん。自分でやんなよ。そこがアメリの部屋だよ》

 光がふわりと移動して、ひとつの曇りガラスの前で止まった。

(さすがに気まずいが……)

 ルークは渋々、窓をコンコンと叩く。すると少しの間と共に、窓が開いた。

「誰……? ひゃっ、る、ルーク様」

 アメリの顔を見て、ルークは無性に安心した。
 怒らせたことを反省しているとか、気持ちを考えてやれなかったとか、いろいろと思いはあったはずなのに、顔を見れたことに喜んでいる自分がいる。
 ルークは顔が熱くなってきて、つっけんどんな言い方しかできない。

「……見舞いだ」

 ポンと花を渡し、急いで背中を見せる。顔が赤くなっているのをばれたくはなかった。

「え? 花? え、ちょ、ちょっと待ってください」
「昨日は、勝手な言い分を押し付けて悪かった。昨日の話はなかったことにしてくれ。お前が嫌なら、責任を押し付けるようなことはしないし、俺が王として、責任もってこの国を復興させる。ただ、……力を貸してほしい。お前のことは俺が守るから」

 最後のほうは声がすぼんでしまった。
 気恥しくて逃げようとすると、「待って」と彼女の声がする。

「なんだ」
「待ってください。……力になります。私だって、ルーク様の力になりたいです」

 彼女の瞳にはなにか決意の色のようなものが宿っている。

「仕事に、戻ります」

 決然と言い切ったその姿に、ルークの心も少し浮上する。

「ああ。待ってる」

 そこから内庭を一回りしてルークが執務室に戻る頃には、アメリはいつものメイド姿で執務室にいた。
 そのことに、ルークは自分でも驚くほどほっとしたのだ。

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