処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 それから夜会の日までの間、ルークとアメリのダンスレッスンは続いた。
 夕食も一緒にとり、食事の作法も確認する。
 アメリは、ルークが暮れる知識のすべてを、乾いたスポンジが水を得たときのように吸収した。

「お前が嫌なら、王族であることも公表しない」
「いいんですか?」
「ああ。できるところまでは、自分で頑張ってみよう」

 そう言えば、アメリはほっとしたように笑った。

(……そうだ。こうして笑っているなら、それでいい)

 隣でアメリが笑っているだけで、満たされている自分がいる。

 婚約者はロバートを好きになった。
 魔力が多いと有望視されていても、王子として国に望まれることはなかった。
 ルークは、どれほど努力を重ねても、どんなに成果を出しても、多くのものが自分の手に残らないことを知っている。

(だからアメリも、きっといつか、俺から離れていくのだろう……)

 そんな風に考える時点で、アメリは特別なのだ。

「……くそっ」

 わかっていつつも認めたくもなく、ルークは考えるのを止めた。

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