処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました

悪魔と出会う夜会

 夜会の日、アメリは朝から他のメイドたちに体を磨かれていた。

「まさかあんたがルーク様を射止めるとはね」
「本当よ。ねえ、ルーク様って怖くない?」
「はは。そういうんじゃないんですってば」

 不思議と、やっかみよりは同情が多い。ルークが普段から愛想が無いおかげだ。

「脅されているんじゃないよね?」
「あー。はは」
「変わってあげようかぁ?」

 ジャニカが冗談交じりで言った時、アメリはなんだかモヤモヤした。

「それは……」
「やだ、冗談だよー。そんな顔しないでよ」

 いったい自分はどんな顔をしていたのだろう。アメリは最近、自分のことがよくわからない。
 ただ、他の人が自分の代わりにルークの隣に立つ姿を想像すると、モヤモヤした嫌な気分が湧き上がってくる。

(待ってよ。恋なんかしたって無駄。……だって相手は公王なのよ?)

「じゃあ次、香油を塗るよー」

 優しい花の香りに、ルークが持ってきてくれた一輪の花を思い出した。そして、少しだけ切ない気持ちになったのだった。


 身支度が整ったときには、二時間以上が経過していて、アメリはもうクタクタだ。

「準備はできたか?」

 ルークは、アメリと揃いの夜会用の衣装を、より格好良く着こなしている。見惚れてしまうほどだ。
 他のメイドたちもそうだったようで、一瞬ほうけたのち、「ル、ルーク様、とってもお似合いです!」と正気に返ったように繰り返した。

「アメリも美しいな、見違えたぞ」

 普段見せないような優しい笑みに、赤面してしまう。メイドたちも倒れるような仕草をしていた。脳内は大騒ぎなのだろうと容易に想像できる。

「あ、ありがとうございます」
「俺はおかしくないか」
「それは本当に大丈夫です。お似合いです」

 ルークは頬を緩ませて上から下までアメリを見つめると、アメリの首に手を回し、ネックレスをつけてくれた。

「これは……?」

 銀のチェーンを使って、小さなフローライトが編み込まれている。一つひとつは小さく色味も薄いが、編み上げたことにより豪華さを生み出していた。
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