あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 
 馬車は石畳の道を走る。正直お尻がちょっと痛い。王侯貴族の使う馬車でこれなら、他の馬車はどれだけ辛いのだろう。

「馬車で長旅とか最悪ですね」
「長旅はそう辛くもないぞ。道が途中から土になるから、揺れは逆に少ない。王都は石畳だから反動が大きいんだ。……お前はあまり外に出たことが無いのか?」

 ルークが意外そうに言う。アメリが王侯貴族の生活が想像しきれないように、ルークもメイドの生活など想像できないのだろう。

「メイドですからね。旅行はしたことがありません。子供の頃も幽閉生活ですし」
「そうか。では今度どこか好きなところに連れて行ってやろう」

 予想外の返答に、アメリは耳を疑った。

「え? でも」
「俺も視察に出ることはある。その時に一緒に来ればいい」
(なんだ、仕事でか)

 一瞬残念な気もしつつ、いやいや、と首を振る。仕事でも十分に温情をかけてもらっているではないか。

「ありがとうございます。楽しみです」
《アメリ、心臓うるさいぞ》

 フローの声だけが聞えてきた。

「なっ、余計なことは言わないで」

 そんなこと、ルークに聞かれたらどうすればいいのだ。
 揺れる狭い空間で向かい合って座っているくらいでは、ドキドキしているのなんて、きっと気づかれないはずだ。
 なのに、アメリは馬車がテンバートン侯爵家につくまで、ずっと落ち着かないままだった。

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