処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 ルークが前を見ると、その先にいる人々が道を開ける。

(わあ、すごい)

 ルークがいれば、誰になにを言われても、恐れることなんかないのかもしれない。
 誰より強い彼が、アメリを守ると誓ってくれているのだから。

《アメリ、僕もいるよ》

 フローの声にも勇気をもらい、アメリは息を大きく吸い込んで、口角を上げてみる。
 アメリが笑顔を見せると、馬鹿にしたような顔をしていた人たちが、たじろいだように見えた。

(なんだ、そっか。私が怯えているから、この人たちは強気でいられたんだ)

 毅然と顔を上げれば、世界は先ほどとは違って見えた。

「さすがだな」

 小さなささやきは、ルークの称賛だ。その一言がまた勇気をくれる。

(ああ、……やっぱり駄目だ。認めないわけにいかないみたい)

 ルークが好きだ。彼に褒められるのが誇らしい。
 そんな思いが胸を締め付ける。

「これはルーク様。ようこそいらっしゃいました」

 前に立ちはだかったのは、主催者であるテンバートン侯爵とその娘のフェリシアだ。

「テンバートン侯爵、招待、感謝する」
「とんでもない。おひとりでいらっしゃると思ったのに、今日はお連れ様がおられるのですね。ご紹介していただけますか?」
「ああ。こちらはアメリ・スレイド嬢だ」
「スレイド? 聞かない名ですね」

 いぶかしがるテンバートン侯爵の脇で、わなわなとフェリシアが震えていた。

「あなた! あの時のメイドじゃなくて?」

 警戒したようにアメリを見ていたフェリシアは、その事実に気づくと、高らかに笑った。

「嫌だわ。ルーク様ったら、メイドをお相手に連れてくるなんて。なんのお遊び?」

 周囲も一気にざわつく。しかし、ルークは悠然と笑うと、アメリの腰に手を回した。

「紹介するのは初めてだったな。彼女は俺の大切な人だ。そばから離したくないのでな。補佐もしてもらっているんだ。今後もよろしく頼む」
「なっ……」

 フェリシアがびっくりしているが、それはアメリも同じだ。
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