あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「お集まりの皆さん。今日は皆さんに、優秀な商人をご紹介したく、お集まりいただきました」
高らかに、テンバートン侯爵の声が響きわたる。
ルークとアメリは会場の奥でそれを見ていた。
「……ルーク様」
「あれがカーヴェル卿だ。本人曰く、鉱山で精霊の声が聞えたそうだが」
「私、……なんだか彼に既視感があるんですけど……」
でも、どこであったかは思い出せない。考えているうちにカーヴェル卿の挨拶も終わり、テンバートン侯爵が挨拶の締めをした。
「では、ダンスや食事をご自由にお楽しみください」
楽団の音楽が鳴り始める、最初はワルツだ。
「始まったか。最初に一曲踊っておこう」
「はい」
ルークに手を取られて、アメリはホールの中央へと向かう。
「適当に合わせてやるから動いてみろ」
「ええと、一、二、三、一、二……」
「うまいぞ。背筋を伸ばしていろ」
練習の成果か、ステップはうまくできている。ただ、足に集中しすぎて、つい下ばかり見てしまうのが問題だ。
体の軸がぶれて、よろけそうになっても、ルークの手が支えてくれる。
(……どうしよう。うれしいな)
ルークが、じっとアメリを見ている。なんとなく視線が優しくて、口もとも緩んでいて、アメリもつられて微笑んでしまう。
「そうだ。周りなんて気にするな。ただ、俺だけ見ていろ」
こちらが勘違いするような言い方をしないでほしい。
(相思相愛の恋人同士みたいに、見えちゃうじゃない)
これ以上好きになってしまうのが、なんだか怖い。
「まあ、では、カーヴェル卿は精霊の声が聞えるのですか?」
女性の高い声が響く。
アメリとルークは、踊りながら顔を見合わせた。
「精霊なのですかね。声が聞えました。鉱山の中でです」
「きっと精霊ですよ。カーヴェル卿は王家の血筋なのではありませんか?」
カーヴェル卿を囲む集団がざわめいている。
アメリは気になって動きを止めてしまったが、ルークが強引に引っ張ってくれた。
「続けろ。下手でもいいから動いていろ」
耳元でささやかれ、アメリは小さく頷く。