あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「本当ですか? 精霊の声が聞こえるなんて、まるで巫女姫では」
「本当です。『この鉱山からは金が出る』と言われましてね。半信半疑でテンバートン侯爵に頼み込んで掘ってみたら……という次第です。精霊は、この国の他の土地にもまだ金は眠っているとおっしゃっています。私は、それらの発掘にも力を貸したいと思っているんです」
「おお……では、私の領地にも来てもらえないだろうか」
「いや、こっちに来てくれ。手厚く遇させてもらおう」

(カーヴェル卿は本当に声が聞えるの? だとしたらフローがいるみたいに、金の精霊もいるってこと? それとも……)
《違うよ。そんなのでっちあげさ。僕にはわかる。あいつはベリトだよ》

 フローの声がアメリとルークの耳に届く。
 フロー曰く、ベリトは、長い歴史の中で、たびたびフローの前に現れた存在らしい。

《僕ら精霊の力を奪って、いたずらをするのが好きなんだ。あいつは欲深い人間が好きで、契約して体の主導権を奪う。十年前もそうやって前王に取り憑いたんだ》
「じゃあ、今取り憑いているのがカーヴェル卿ってことね。どこで出会ったのかしら」
《いいや。ベリトは憑くのは、魔力のある人間だ。カーヴェル卿と名乗っているが、あれはおそらく、第二王子ドウェインじゃないかな?》

 ルークが驚きで目を見開く。
 言われて、アメリも既視感の正体に気づく。確かに、第二王子はあんな感じの釣り目だった。体が弱く、あまり表立った場所には出なかったから、貴族議員たちはなじみがないかもしれないが、メイドとして城内を動き回っていたアメリは、何度か見かけたことがある。しかし、肌の色は白かったはずだが。

「でも……王族は全員処刑されたんでしょう?」
「そのはずだ。後の禍根を絶つためと、小さな王子まで含めて全員……」

 動揺のあまりか、ルークのステップがずれた。今度はアメリがリードするように彼の手を引く。

「もうすぐ曲も終わります。場所を変えて話しましょうか」

 ちょうど、一曲目が終わるタイミングだ。ルークとアメリは周囲に向けて礼をする。
 すぐさまフェリシアが駆けつけてくる。

「ルーク様、次はぜひ私と」
「すまないな。少し彼女を休ませようと思う」

 あっさりと無下にされたフェリシアは、悔しそうにアメリを睨み、フンとそっぽを向く。

(……フェリシア様。なんだか、可哀想だな)
「行くぞ」

 ルークはアメリの背中を押すようにして、バルコニーへと向かった。
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