あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
バルコニーには、誰もいなかった。外はすでに陽が落ち、夜空に星が舞っている。
「飲み物でもいるか?」
「いいえ。それより……カーヴェル卿の話です。彼が本当に第二王子に憑いているのでしょうか」
「しかし、俺は全員が処刑されたのを見届けたぞ?」
過去を思い出したのか、ルークが辛そうに眉を寄せた。
《その時すでに、影武者だったんじゃないかな》
フローが会話に加わってくる。
《前にベリトが現れたのが、十年前だ。その時、奴は前王に憑いていて、ローズマリーから精霊石を奪い取り、その力を原資として錬金術を使った。僕は急激に力を奪い取られ、眠りについたんだ》
ベリトは王の、そして周囲の人間の欲を増大させ、錬金術で作られた金はもてはやされた。
だが、そうして作られた金は、数年で化けの皮がはがれた。
錬金術で作られた金は、見た目こそ金だが、本質が変わるわけじゃない。元の鉱物としての性質は維持したままだし、ベリトの術が解けたら、元の鉱物に戻る。
金として輸出されたものは、実際にはわずかなフローライトを内包した鉱石だった。ボーフォート公国産の金の信用はがた落ちし、経済は大きく揺らいだ。
《おそらくそのあたりで、ベリトはターゲットを変えたんだと思う。器として、ドウェインが選ばれた。第二王子が失踪となれば問題だから、影武者を置いていたんだろう》
「そして、再び戻って来たってこと? それはどうしてかしら」
《多分、精霊石から、また力を奪い取れるようになったからじゃないかな》
アメリのネックレスから、ほのかな光が浮かぶ。
《力を奪い取られた僕は、本来ならば消えて自然に還るはずだった。だけど、眠るだけで済んだのは、ローズマリーが作ってくれたパペットっていう居場所があったからだ。そして、アメリと再会して、僕は力を取り戻していった。僕と精霊石は離れていてもつながっているから、力が戻ったことがベリトもわかったんじゃないかな》
「なるほどね。でも、確かに似てはいるけど、ドヴェイン様はもうちょっと肌の色が白かったし、顔つきもちょっと違ったわよ」
《ベリトは錬金術の使い手だよ。変化の術はお手の物だ》
「ふむ」
ルークはバルコニーの桟に背中を預けて、腕を組んだ。