あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「だとすれば、あいつの目的はなんだ?」
《遊びだよ。悪魔の目的なんて、そんなに仰々しいことじゃない。僕ら精霊のことをおもちゃかなんかだと思っているんだ。一度遊んで捨てたおもちゃが、元気に動き出したから興味を持っただけだと思う》
「最悪だな」
《本当にね》

 同意が得られてうれしいのか、フローはルークの周りを飛び回る。

「じゃあ、それを阻止するために、精霊石を取り返さなきゃいけないのね?」
《そう、精霊石を通じて、僕の力が奪われているから》

 問題は精霊石がどこにあるかだ。ルークの言っていた黒い指輪のことも気になる。

「とにかく、カーヴェル卿に近づいてみるしかないんじゃないかしら」

 アメリがつぶやくと同時に、ルークがハッとしたように顔を上げる。

「お姿が見えないから探しましたよ。こんなところにいらしたとは」

 突然の声に振り向くと、そこにはカーティス卿がいた。手にはグラスをふたつ持っていた。

「戸の開く音はしなかったが……」

 小声でルークがつぶやき、アメリをさりげなく抱き寄せた。

「よろしければいかがです? テンバートン侯爵ご自慢のワインですよ」

 差し出されたグラスを、ルークが盾になるように前に立ち、一杯だけ受け取った。

「彼女は、お酒は苦手なんだ」
「おや、そうでしたか。でしたらアルコールの入っていないものを頼みましょうか」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です」

 愛想笑いを浮かべたその時、フローである光の球から、小さな淡い光が抜け出てきた。そして、それはふらふらと宙を舞いながら、カーヴェル卿の左手についた黒い指輪に吸い込まれていく。
 それを目の端で眺めていたカーヴェル卿が、にっこりとほほ笑んだ。

「……どうして?」
「おや、これが見えるのですか。ではフローがそこに居るのも、偶然ではないのですね」
「……!!」

 フローの名前が出た途端、ルークの警戒を強め、アメリを背中にかばう。彼が持っていたグラスが、落ちて粉々に割れた。
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