あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 アメリがルークの部屋付きメイド兼侍女──名付けて雑用係になったことは、その日のうちに城の使用人全員に知らされた。
 男性使用人は、おおむね好意的だ。「閣下に睨まれてもめげるなよー」と励ましてくれる。女性使用人は「いいなぁ」と羨む者と、「息が詰まりそうね」と同情する者に二分した。

「ご愁傷様、頑張れ、アメリ」

 ジャニカは同情する方だ。アメリも自分じゃなかったら同情していただろうと思う。

「まあ、こうなってしまったからには仕方ないわ。頑張りなさい」

 神妙な表情でマーサに言われてしまった以上、もう撤回は見込めないだろう。
 これまでアメリがやっていたランドリーメイドの仕事は、すぐに新しい人員が補充され、メイド長の有能さを見せつけられる結果に終わり、アメリはずーんと落ち込んだ。

(どうせ、私の仕事なんて替わりがきくものなのよね)

 メイドというのはそういうものだし、そうでなければ困る職種だ。なにもおかしくはないのに、なんだか沈んでしまう。

「ところで、私は今後、誰に指示を仰げばいいのでしょう」

 部屋付きメイドならば、メイド長が上司で、直接の要望はルークに聞けばいい。侍女ならばルークに直接雇われているという認識になるのだろう。
 雑用係というこれまでにない役職名をつけられたことで、アメリとしては指示系統がわからない。

「ルーク様でいいんじゃないかしら。従者様に割り振っていた仕事も任されるのなら、私では把握しきれないし」

 メイド長が頬に手を当てて言う。

「それなら私を上司と思ってもらえばいい」

 扉の開く音と共に、ジャイルズ伯爵が入ってくる。
 ここは使用人の待機部屋だ。予想外の人物の登場に、皆がこぞって頭を下げる。

「ジャイルズ伯爵様」
「大公閣下の側近をまとめるのは私の役目だ。君もその一員になったと思ってくれればいい」
「は、はあ」
「で、気を悪くしないでほしいのだが、閣下の側付きとするならば、身元はしっかりさせなければならない。君自身のことを聞かせてほしい。まずはフルネームから」

 どうやら、アメリの身辺調査をしにやって来たらしい。
 確かに必要なことだと思うが、アメリには聞かれたくないこともたくさんあるのだ。
< 13 / 161 >

この作品をシェア

pagetop