あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「身重の奥様がいらっしゃるんじゃありませんでしたっけ。とんだご迷惑を」
「あら、いいのよ。気になさらなくて」

 明るい声と共に、大きなおなかを抱えた女性が入って来た。

「初めまして。私、ロバードの妻のマルヴィナ・ジャイルズです」
「奥様、初めまして。アメリ・スレイドと申します。突然の来訪、申し訳ありません」
「いいえ。閣下の焦る顔なんてなかなか見れるものじゃありませんもの。楽しませていただきましたわ」
「マルヴィナ!」

 一瞬赤面したルークが、じろりとマルヴィナを睨む。

(気安そう……。そう言えば、昔は婚約者だったんだっけ)

 少しばかりチクリと胸は痛んだが、アメリは首を振ってその考えを追い出した。

「少し、アメリとふたりにさせてもらえるか?」

 ルークがジャイルズ夫妻に向かって言う。

「ルーク様、お相手は未婚の女性です。変な噂を立てられるようなことはなさらないでね」
「わかっている。俺がそんなことをするはずはないだろう」
「そうかしら。今まで見たことのないような顔でお越しになるのですもの。閣下にとって特別なことくらいは私にもわかりますわよ」

 からかうようにマルヴィナが言い、夫を伴って部屋から出ていく。

「……ったく」

 ルークはガシガシと頭を掻く。
 アメリはどんな顔をしたらいいのかわからず、彼のことを、ただじっと見ていた。

「すみません。私、倒れてしまったんですね」
「ああ。今日は帯剣もしていないし、お前を休ませる方が先だと思って、あの後すぐに抜けてきたんだ」
「カーヴィル卿は……」
「俺とやり合う気はないらしいな。特に追ってくる気配もなかった」
「そうですか。ではルーク様はご無事ですね」

 ほっとしてそう言うと、ルークは渋い顔をする。

「……人の心配ばかりするな。お前が倒れて、俺がどれほど動揺したと思っているんだ」

 真剣な表情だ。アメリはドキドキしてしまう。
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