処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「……アメリ、教えてほしいことがあるんだが」
「なんですか?」
「本当の名前はなんて言うんだ?」
一瞬意味がわからなかったが、やがてルークの求めているのが、巫女姫の娘としてつけられた名前だと気づいた。
「アンリエッタです。アンリエッタ・ボーフォート。この名前で呼ばれることは母とマーサさんにしかなかったですけど」
「そうか」
ルークの口もとがちょっと緩んだ。
(あれ、これってどういう顔……?)
なんてことを考えていると、少し熱のこもった声で名前を呼ばれる。
「アンリエッタ」
「はい?」
「……アンリエッタ」
「だからなんですか!」
「いや、いい名前だな」
待って。なんかやり取りがおかしい。なんだか変に甘ったるい。
「さっき大好きな人たちに報いたいと言ったな。それに、俺は入っているのか?」
「へ……」
確かに言った。もちろん、ルークのことも入っている。だけど、こうして改めて聞かれると、なんだかとっても恥ずかしい。
「そ。そりゃ。ルーク様は、国のことしっかり考えてくれてますもん……」
声が尻すぼみになっていく。
次の瞬間、頬に小さなぬくもりを感じた。
「……え?」
唇が、ゆっくり離れていく。その感触の上から手を当て、アメリは今起きたことを反芻した。
(うそでしょ。ルーク様が今、私の頬に)
「また明日な」
「…………はぁ」
頭が真っ白だ。今なにが起こったのか。どういうことなのか。
ルークが出ていった頃、ようやく声が出せた。
「……キスなんて、反則じゃないですかあ……」