あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 その後、ジャイルズ伯爵邸の侍女がやって来て、新しい着替えを用意してくれた。

「なにからなにまですみません」
「いいえ。奥様の古着で申し訳ありませんわ」
「とんでもありません。こんな綺麗なドレス」

 ジャイルズ夫人──マルヴィナは侯爵家の出身だったそうで、ドレスはどれも質がいいものばかりだ。お古とはいっても数回しか袖を通していなさそうで、新品と言われても納得できる程綺麗である。
 着替えた後は朝食の席まで向かう。アメリの方が先に着いてしまい、言われるがまま座っていると、ジャイルズ伯爵が夫人をエスコートしながら入ってきた。
 大きな体に似合わない小さな歩幅でマルヴィナを気遣っている。他のことなど気にもならないのか、顔の向きが奥方の方向で固定されていた。

(愛妻家だと思ってはいたけど。これは想像以上ね)

 夫人が席に着くまで、結局彼の視線はマルヴィナから動かなかった。彼女を着席させて、ようやくアメリに向き直る。

「やあ、アメリ、おはよう」
「ジャイルズ伯爵様、この度は……」
「いやいや、詫びとか礼は一度で結構。最近、ルーク様のことをお任せできるようになって、俺もアメリに礼を言いたいくらいだったんだ。気にするな」
「そんなことは……」

 たしかに、最近のルークは、ジャイルズ伯爵をさっさと帰してしまっていて、夕食の時にはふたりきりの方が多かった。

「それに、アメリとは一度ゆっくり話したいとも思っていたんだ。ちょうどいい機会だ。昨日はどうだったんだ?」
「……ルーク様はどこまで話されましたか?」

 ジャイルズ伯爵に対して、どこまで明かすことが許されているのかわからない以上、下手な話はできない。そう思って聞いたが、なぜかマルヴィナが目を輝かせてきた。
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