あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「まあ、アメリ様は冷静なのね。そんなところもルーク様が好きそう」
「こらこら、マルヴィナ。そうだな。閣下はカーヴェル卿から挨拶を受けたことは話してくれたぞ。その後、君が倒れた……とな」

 であれば、まだ巫女姫の話も伝えていないのだろう。

「私から言えるのもそのくらいですね。細かいことはルーク様の判断を仰いでからじゃないと」
「じゃあ別の話を聞こう。ルーク様のエスコートはどうだった?」
「え? どうってべつに普通でしたけど……。ほとんどずっと一緒にいてくださいましたし、ダンスだって……」

 さらりと応えようとしたのに、ジャイルズ夫妻の目がらんらんとしてきた。

「え? あの」
「あの朴念仁がずっと一緒にですって? やはりルーク様はアメリ様に気があるのではありませんの?」
「確かに、昨日帰る時もやたら名残り惜しそうにしていたよな」

 夫婦は顔を見合わせほくそ笑む。

(もしかして、奥様も恋愛脳なのかしら……)
「か、勘違いしないでください。ルーク様が私をパートナーにしたのは、他に相手がいないからでですね!」
「言いそう。そういうこと」
「誘えば誰だってついてくるんだ。そんなのは言い訳だろう」

 駄目だ。聞いてもらえない。アメリは諦めて、夫妻の興奮が収まるのを待った。

「うふふ。楽しみね、あなた。早くルーク様には幸せになってほしいもの」
「そうだな。マルヴィナ」

 アメリが会話から離れても、ふたりは仲良く微笑み合っている。周りが見えないって強い。
 ぶしつけとは思いつつ、アメリは気になっていたことに踏み込んでみた。

「あの、マルヴィナ様はかつてルーク様の婚約者だったんですよね?」
「そうよ。誰が教えたの」
「俺だ」
「まあ、余計なことを」

 ジャイルズ伯爵は妻に睨まれてもうれしいらしい。顔がニマニマしていて締まりがない。

「心配なさらないで。私とルーク様の婚約は、親同士が決めただけで、互いに愛情はなかったの。それに私、ああいう表情の無い方は好きじゃないのよ」
「いや、心配とかはしていませんけど。マルヴィナ様もご存じのとおり、ルーク様は女嫌いを自認していらっしゃいますし、私なんて……」
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