あなたがお探しの巫女姫、実は私です。

 と思ったが、突然昨晩の別れ際を思い出した。

(いや、そう言えば頬にキスをされたんだった)

 さすがに、なんとも思っていない人にはあんなことはしない。普段、女の人を寄せつけない人なんだから、それは間違いない。

(だったら、ルーク様は私を好き? いや! そんなのあり得ない)
「あら真っ赤。なにを思い出したの? アメリさん」
「いや。その……」
「閣下が君に手を出したのか? そんな甲斐性あったのか」

 失礼なことをジャイルズ伯爵が言うので、アメリは思わず叫んでしまった。

「そんなことありません! ただっ、ちょっとほっぺにっ」
「頬に?」
「するのはキスくらいしかありませんわね」
「あ、あわ」

 マルヴィナが、口調は穏やかなのに切り込み方がすごい。
 アメリは項垂れてしまう。

「あ、あり得ません。ルーク様は公王ですよ。私なんかに……。気の迷いです。私なんて居なくても、ルーク様は幸せになられるはずです」

 アメリが叫ぶように言うと、マルヴィナは柔らかく微笑んだ。

「アメリ様、ご存じ? 強い男性って、案外さびしがりなんですのよ」
「え?」
「ロバート様もそうですの。肉体が強いから、ひとりでも平気だって思い込んでしまうのでしょうね。でも私には、全然平気そうに見えませんの。私が死んだら、寂しくて死んじゃいそうじゃありません?」

 たしかに、ジャイルズ伯爵はそんな感じだ。
 いくら体が強くても、心が寂しければきっとつらい。

「だから私ね。子供をたくさん産みたいって思いましたの。あの子たちがいれば、ロバート様が寂しくなることはありませんでしょう? そうすることで、私が彼を守れるって思ったんですわ」

 朝に見た、可愛い子供たちを思い出す。
 マルヴィナにもロバートにも似たところがある、愛らしい子供たち。
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