あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 困ってマーサを見つめると、彼女は小さく頷いた。

「アメリは孤児です。姓はありませんが、必要でしたら私の姓であるスレイドとお書きください。彼女の後見人は私です」
「そうなのか。……悪いことを聞いたな」

 困った顔をするジャイルズ伯爵に、アメリはちょっと好感を持った。
これまで貴族に身元を知られたときは、孤児を城で働かせるなんてと眉を顰められることの方が多かったからだ。

「ええと、私はメイド長……マーサさんに拾われて、この城に来ました。物心がつく前です。ですから、私はほとんどこの城で過ごしてきました。七歳ごろから仕事を手伝うようになり、十六歳から正式なメイドとして働いています」
「ふんふん」

 ジャイルズ伯爵は、流れるような手つきでペンを滑らせている。

「それでは、読み書きは無理か」
「失礼な。読み書きくらい教えています!」

 経歴を聞き、少し眉をひそめたジャイルズ伯爵に、突っかかるようにメイド長が言う。

「そ。それは済まなかった。メイド長は教育にも関心があって素晴らしいな……」

 ジャイルズ伯爵は体も大きく肉厚で、動物に例えるならクマあたりを想像するが、すっかり腰が引けて、しゅんとしてしまっている。
(……この人、きっといい人なんだなぁ)

 見るからに善人オーラが滲み出ている。

「まあ、孤児であることは問題ないと閣下本人が言っているので構わない。……よし。後は雇用条件の確認だな。ちょっとついてきてもらえるか」
「え、えと……」

 アメリは困ってマーサを見つめる。

「雇用条件を最初に取り決めるのは、あなたにとってはいいことですよ。その代わり、委縮しないで、できることとできないことをはっきりさせておきなさい」
「はあ」

 頷くアメリを満足そうに見やり、マーサはジャイルズ伯爵に食って掛かっていった。

「ジャイルズ伯爵様、間違ってもこの子をルーク閣下の愛人にしようなんて思わないでくださいね」
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