あなたがお探しの巫女姫、実は私です。

「ルーク様もそうだと思います。……ひとりで大丈夫なんて、頭の片隅ではひとりでは駄目だって自覚している人が強がりで言うセリフですわよ」
「マルヴィナ様……」
「ルーク様にはあなたが必要ですわ。……元婚約者の見立てでは、ですけれど」

 チャーミングで、かわいらしい方だ。ジャイルズ伯爵がぞっこんになるのも頷ける。
「ルーク様は筋金入りの強がりですから、絶対に言わないでしょうけど、本当は誰かに選んでほしくて仕方ないんですわ。ですからアメリさん。あなたがあの方を選んでくださるとうれしいのですけれど」

 マルヴィナが花のように笑う。天真爛漫だけれど聡明そうな眼差し、完璧な貴族令嬢である彼女に、ルークは恋をしなかったんだろうか。

(あれ、なんか胸が痛いな)

 マルヴィナがかわいいと感じるたびに、胸の奥がきゅっとなって苦しい。
 こんなに素敵な人が婚約者で、恋をしないはずがない。彼はマルヴィナがジャイルズ伯爵に恋をしたから、自ら身を引いたのだろう。

「私なんかが選ぶなんて、恐れ多いです……」

 なんだか悲しくなってきた。
 だってアメリは、巫女姫だと明かす勇気がないくらいの臆病者だ。
 巫女姫と認定されてしまったら、国中の人の期待を一手に背負わなきゃいけなくなる。
 彼を支えたいなら、共に歩みたいなら、その公表は避けられないのに。

(支えたいなんて思っているくせに、巫女姫として生きる決心はつかない)

 自分がとても卑怯な気がして、アメリは胸が苦しくなった。

< 140 / 161 >

この作品をシェア

pagetop