あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 ジャイルズ伯爵の出勤に合わせてアメリも出発する。マルヴィナと子供たちが揃って見送ってくれた。

「またいらしてね、アメリさん」
「お姉ちゃん、またねー!」

 リサは元気に手を振り、隣に立つノアはぺこりと小さく頭を下げていた。
 馬車が走り出してから、しばらくして振り返ると、まだリサがぴょんぴょん跳ねているのが見える。

「ジャイルズ伯爵様のお子様は、ふたりともかわいいですね」
「だろう? マルヴィナのおかげで、ふたりとも素直に育ってくれた。そもそもマルヴィナがかわいいのだ。この間もだな……」

 そこからしばらく、惚気を聞かされる羽目になる。

(幸せそうで結構だけど、聞いている方はキツイわね……)
「なあ、アメリ」
「はい」
「君はルーク様のことをどう思っている?」

 面と向かってそんなことを問われるとは思わなかったので、驚いた。

「……尊敬しています。自分が産まれたわけでもない、崩壊寸前の国を、ここまで立て直してくださったんですから」
「そうだな。そこは俺も尊敬している。閣下はいつも冷静でな。年下だというのに、俺の方が感心させられることばかりだった。だが、昨日は驚いた」
「え?」
「いつも余裕しゃくしゃくルーク様が、汗だくで屋敷に飛び込んできたんだ。あんなに感情的になっているのは初めて見た」

 そんなの、想像もつかない。

「感情的……でしたか?」
「ああ。泣くんじゃないかと思って焦ったくらいだ」
「……さすがに、それは盛りすぎでは?」

 ジャイルズ伯爵の言動なので、いまいち信じられない。
 否定されたジャイルズ伯爵は、苦虫を嚙み潰したような顔をする。

「本当だ。だから……嫌いじゃないならそばにいてあげてほしい。なにも恋人になってほしいと言っているわけじゃない。ただ、あの方の孤独を和らげてあげてほしい」

 こんなに心配してくれる側近がそばにいるのだから、ルークは孤独ではないだろうと思うが、アメリは頷いた。
 そばにいたいのは、自分も同じだったから。
 
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