あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
* * *

 昨晩遅く帰ったにも関わらず、ルークは早朝の鍛錬を欠かさない。
 まだ人も少ない鍛錬所で、一心に剣を振る。

「はっ」

 振り下ろした剣は、わずかに炎をまとっている。
 ルークはレッドメイン国で一番魔力が多いと言われている。しかしその性質が攻撃特化であるゆえに、国を治める者に必要な結界魔法が習得できなかった。

『まあルークは三男だから』

 両親もあっさりとそう断じ、ルークを早々に後継者からは外した。
 そのせいか、〝自分は期待されていない〟という思いが、ルークの中に常にある。
 幼少期からの婚約者だったマルヴィナも、ルークに好意は抱いていなかった。

「ルーク様のおかげで王城の図書室に出入りできるのはいいですわね」

 マルヴィナは良くも悪くも利己的な人間だ。自分の主張がはっきりしていて、ある意味でわかりやすい。
 なにを考えているのかわからないような令嬢よりはずっと好感が持てたし、彼女と義務的に結婚することには、特に不満も感じていなかった。
 しかし、マルヴィナは、ルークの側近のロバートに一目惚れしたのだ。

「ごきげんよう。ロバート様」
「これはマルヴィナ様。ルーク様はこちらにおられますよ」
「ロバート様もご一緒してくださいませ。ルーク様は騎士団に入られたのでしょう? ロバート様から見ていかがですか?」

 ルークを餌に、しっかりロバートとの時間を取っていくマルヴィナの手腕に感心しつつも、ロバートが、たとえ好意があったとしても主君の婚約者を奪うような人間でないことも知っていた。

「ルーク様、ひとつ取引をいたしません?」
「なんだ?」
「私、文献で読みましたの。かつて剣に魔法をまとわせて戦った剣士がいたそうですわ。ルーク様の魔力は攻撃特化と聞きますし、このやり方で上手に魔力を使えるのではありませんか?」

 ルークは、マルヴィナからその本を奪い取った。そこには魔法剣と呼ばれた魔法を帯びた剣を操るかつての王族の話が書いてある。

「確かに……」
「この情報の代わりに、私を助けてはくださらないかしら」

 マルヴィナは暗に、婚約破棄を願ってくる。

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