あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「先に内容を聞かせておいて、取引も何もないだろう」
「あなたが断らないと思ったから先にお教えしたのですわ。メリットを示さなければ、話に興味も持たないじゃありませんか」

 良くも悪くも自分のことを理解している幼馴染に、ルークは笑ってしまった。

「……いいだろう。その話、乗った」

 そうして、ルークは婚約破棄を言い渡した。
 ロバートはルークを責め、マルヴィナを慰めに行く。後はマルヴィナがうまくやるはずだ。マルヴィナは欲しいものを諦めるような女ではないのだから。

 しばらくするとマルヴィナとロバートの婚約が調った。
 その頃には、ロバートは自分のためにルークが婚約破棄したことに気づいていて、ルークに平謝りしたものだが、マルヴィナは飄々と笑っていたものだ。

 この時に知った魔法剣というものが、ルークのことも救ってくれた。ようやく、多すぎる魔力を自由に操れるようになったのだ。

(不思議なものだな。それがこうしてボーフォート公国を治めることに繋がったのだから)

「カーヴェル卿は精霊が見えるらしいぞ」

 不意に耳に入って来たのはそんな言葉だ。見ると、薪を抱えた使用人がふたり、肩を寄せ合って話している。

「どういうことだ?」
「もしかしたら、ローズマリー様の落とし胤なんじゃないかなんて言われている」

 使用人たちにまで、そんな噂が広がっているのか、とルークは驚く。
 あることないこと騒ぎ立てるのは、よくあることだが、今回はタイミングが悪い。

「……国の復興に力を入れているタイミングで、金のありかを言い当てた精霊の姿が見える男」

 それだけで、飢えた民がすがるには、十分だ。

(民がカーヴェル卿を望んだら……厄介だな)

 本当の巫女姫はアメリだ。しかし公表するのを嫌がっている以上、彼女を表に出すわけにはいかない。
 カーヴェル卿をけん制するためには、客観的に納得できる、〝彼が巫女姫の子ではない証拠〟を出さなければならないのだ。

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