あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 いつものように衣装を用意して待っていたアメリの元に、濡れ髪のルークがやって来る。
 アメリを見ると驚いたような顔をしていたが、間髪入れずにアメリの方が質問攻めにする。

「もしかして、また鍛錬していたんですか? 昨日の今日なのに? 大丈夫なんです?」
「それはこっちのセリフだ。こんなに早く復帰して大丈夫なのか」
「私はぐっすり寝たので大丈夫です」

 憮然として言ったら、頬を掴まれた。

「なっ……」
「顔色はよくない。今日はこれで終わりにしていいから休んでいろ」
「今来たばっかりですよ!」
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて。まずは朝食をお召し上がりください」

 ジャイルズ伯爵が生暖かい目で見ながら、仲裁に入る。

「今日も議会でしたよね」
「ああ。昨日の今日で、古参貴族の反応が気になる。俺たちが帰った後、カーヴェル卿がどの程度信望者を作ったかとかな」
「……彼が、巫女姫と呼ばれるんでしょうか」

 男性だから姫という呼ばれ方には違和感があるが、精霊の声が聞えると公言している以上は他に言いようがない。

「そうかもな。まあ、お前は気にすることはない。俺がなんとかする」
「なんとかって?」

 ルークは答えないまま、ただアメリの髪をくしゃくしゃと撫で、「いいからフローのためにもお前は休んでろ」と言い、アメリは部屋を追い出されたのだった。

* * *

 大会議場に到着したとき、ルークは違和感を覚えた。
 貴族議員たちの胸もとに、同じような金のブローチがつけられている。

「皆、揃いなのか?」
「こちらは、昨晩カーヴェル卿よりいただいたのです。お近づきのしるしだと。ルーク様は途中でお帰りになったから……」

 近くの席にいた伯爵に聞くと、そんな返事があった。

(昨日……あの後?)

 カーヴェルは、精霊石を使って思い切りフローの力を吸い上げていた。

(まさか、それを使って……?)
「皆様!」

 突然、テンバートン侯爵が大きな声を上げた。

「昨晩は夜会にお越しいただきありがとうございます。今後とも、エルトン・カーヴェル卿へのご支援をよろしく賜りたい」

 席についている議員たちから拍手が湧き上がる。

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