あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「皆、静かに。ここは議場だ。テンバートン侯爵、関係ない話は……」
「閣下。カーヴェル卿は精霊の声を聞こえる希少な方ですよ」
「そうだ。今この国に必要なのはあの方だ」
「カーヴェル卿が金をたくさん見つけてくれれば、我々の懐は潤い、この国もまた繁栄する」

 妙な熱量で、皆が声高に叫び出す。

「皆様、ありがとうございます」

 その時、入り口の扉が開いた。噂の人物、カーヴェル卿がそこに居る。

「ルーク様。昨日は早くお帰りになられて、とても残念でした」

 彼の声に、周囲の貴族議員が声を上げる。

「ルーク様は、カーヴェル卿に失礼にも、来て早々にお帰りになられた」
「王族を全員殺害した方だ。カーヴェル卿のこともきっと気に入らないんだろう」
「しかし彼を殺させるわけにはいかない。ようやく現れた巫女姫なのだから」
「そうだ。必要が無いのは、ルーク閣下の方じゃないか」

 ルークが口を開く前に、彼らは勝手に邪推し、糾弾してくる。

(前から俺に不満があったとしても、この糾弾はあまりに突然すぎる。すでに正気ではないのか……?)

 妙な熱気に違和感がある。

「皆、落ち着いてくれ。ロバート、部外者は外に」
「はっ」

 ロバートがカーヴェル卿の元へ向かおうとすると、数人の貴族議員が両腕を掴んで止めようとする。

「こらっ、離してください」
「行かせないぞ」
「カーヴェル卿を守るんだ」

 彼らの眼差しはすでに普通ではなかった。
 ルークは焦りつつも、議場にいる人々を観察する。興奮する議員たちの中に、時折戸惑っているだけの議員もいる。彼らの服にはブローチがついていない。

(洗脳? ブローチでか?)
「ロバート、下がれ。どうやら全員正気ではない」
「しかしっ……」

 ルークはロバートのそばに駆け寄り、背中合わせに立つ。

「俺の剣はあるか?」
「執務室まで戻れば。ここからならすぐです」
「では、俺がここを押さえておく、取ってきてくれ」
「えっ」

 ルークはそう言うと、議員たちを誘導するべく、反対側に走った。
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