あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「わかっている。私だって本気でルーク様に愛人を勧めているわけではない。だが、あの調子では、結婚も難しいだろう。しかし、私は閣下に、もう少し女性に慣れてほしいのだ」

 ジャイルズ伯爵は神妙な表情のまま続ける。

「私は妻と出会って心の安寧を得た。心を通わせられる相手と出会うのはこれほど幸せなことかと思ったよ。……政をつかさどる者は、とても孤独なのだ。私は側近だが、政務の助けにはなれても、閣下の心安らぐ相手ではないだろう。だから、閣下にいつかは心を許せる女性に出会ってほしいんだ。しかし今の態度では、そもそも女性の友人もできないような始末で……」

 ジャイルズ伯爵が、ぶつぶつつぶやく。
 そうはいっても、ルークは女性相手にまったく話さないわけでもない。なんだか余計な心配のようにアメリには思えた。マーサも同じように思ったのだろう。

「ジャイルズ伯爵様が心配性だというのはわかりましたが、そんなに気をもまずとも、時が来れば女性が恋しくなるものではありませんか? 閣下も年頃の男性ですし」
「そう思って待っていたら、閣下は二十五歳にまでなってしまったんだ!」

 あきれたように断じたマーサに、伯爵はさめざめと顔を押さえながら反論する。しゅんと落ちた肩に、アメリも一瞬同情心が湧いた。

「まあ、伯爵様の考えはわかりましたが、アメリは大きな後ろ盾のないか弱い娘です。閣下がもしご無体なことをなさったら、私は仕事をストライキしますからね」
「やれやれ、スレイド殿は怖いな。あなたを敵には回したくない」
「あら、褒め言葉ですか」

 マーサにやりと笑うと、アメリの背中を押す。

「アメリ、自分の権利は自分で守りなさい」

 重みを感じる言葉に、アメリは頷いた。

「はい。……よろしくお願いいたします。ジャイルズ伯爵様」
「あ、ああ。とりあえず、閣下の意向も確認したいから、執務室で話そう」
「はい」

 アメリは、他の使用人からの羨望と同情の混じった視線を受けながら、ジャイルズ伯爵の後についてルークの執務室へと向かった。
< 15 / 161 >

この作品をシェア

pagetop