あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「なにを言っているんだ、あいつら」
「ジャイルズ伯爵様。私が彼らを引き付けます。だから、早くルーク様の所に行って、その剣を渡してください」

 ジャイルズ伯爵の背中を押し、アメリは人々の気を引くために、大声を出した。

「やめなさい! カーヴェル卿は巫女姫ではありません!」
「なんだと? なんだ? あの小娘は」

 不快そうに眉をゆがめた貴族が、アメリを睨み、近づいてくる。

「アメリ! 逃げろ!」

 ルークが叫んだが、アメリはルークを助けるために来たのだ。こんなところで怯んでなどいられない。
 メイドの姿では、貴族はアメリの話を聞いてくれない。こちらに意識を引き付けるには、思い切り予想外なことを言わないと。

(……マーサさん、ごめんなさい)

 平民として穏やかに生きてほしいと願ってくれたけれど。
 これでもう、叶わなくなってしまうけれど。

(ルーク様を助けられるなら、それでもいいの……!)

「巫女姫は私です。私には精霊の声が聞こえます」

 腹から出した大きな声は、この場の皆の耳に届いた。途端に、周りがざわめき出す。

「そんなはずはない。カーヴェル卿が巫女姫だ」
「違うわ。私は、王妹ローズマリーの娘。そして、巫女姫の力を継いだの! さあ、よく見てみなさい。母と似たこの髪を」

 アメリは結い上げていた髪を下ろした。銀青色の髪が、ふわりと広がる。
 アメリは父親似で、顔の造りはほとんどローズマリーとは似ていない。だけど、この銀青色の髪だけは似ている。

「……確かに、ローズマリー姫の髪色と同じ……」

 誰かが怪訝そうに言った。

「同じ銀髪の人間など、ごまんといるだろう!」

 皆が、食い入るようにアメリを見てくる。怖いけれどこれでいい。
 こうやって皆の意識を自分に引き付ければ、ルークが逃げる隙ができる。

(お願い、早く逃げて。ルーク様)

 貴族たちの手が緩んだ一瞬を逃さず、ルークは拘束から抜け出す。
 ルークが体を起こしながら、驚愕の表情でつぶやいた。

「アメリ! どうして……」

 巫女姫の娘だと、公言したくないと言っていたのは、確かにアメリだ。
 だけど、ルークを救えるのなら、どんな面倒だって厭わない。

「この国の王は、ルーク様よ。巫女姫の名に懸けて、証明するわ!」
「巫女姫の名をかたる不届き者です。皆さん、捕らえてください」
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