あなたがお探しの巫女姫、実は私です。

 カーヴェル卿が叫んだ。その声を聞き、アメリを捕まえんと議員たちは駆け上がってくる。

「ロバート! 剣を寄こせ!」
「はっ」

 阿吽の呼吸で、ロバートが剣を投げ、飛び上がりながらルークが受け取る。

「どけっ、アメリに触れるな!」

 ルークが素早い身のこなしで突進してきたため、議員たちは、剣を恐れて後ずさった。

「ルーク様っ」

 ルークがアメリの前まで来たところで、カーヴェル卿が近づいてくる。

「まったく。物騒な方だ。そういうところが、やはりこの国には見合わない。ここは精霊が加護する鉱山の国ですよ。もっと優雅にしていただかないと」

 カーヴェル卿が右手を上げた。黒い指輪を中心に、緩やかな靄が立ち始める。

「……ん?」

 しかし、思うように力が出ないのか、眉を寄せた。
 今はフローがパペットの中に入っているせいだろう。
 その隙を逃さないよう、アメリは叫んだ。

「ルーク様! その指輪に炎を」
「炎?」

 アメリの声に反応して、ルークは剣に魔力を込める。
 鈍色の刀身に、赤い靄がかかる。炎を帯びて揺らめく剣は美しく、見とれているうちにカーヴェル卿めがけて振り下ろされた。

「うわっ」

 彼が自らをかばおうと掲げた手の中央、ちょうど指輪の宝石の所に、剣がぶつかる。

 ──パン!

 大きな音とともに、宝石は発光した。眩しすぎて、視界が一瞬真っ白になる。
 やがて光が収まり、徐々に視界が戻ってくる。
 アメリに見えたのは、へたりこんだカーヴェル卿と、その足元に落ちていた、ふたつに割れた宝石だ。

「指輪が、……割れた」

 落ちた宝石は、先ほどまでのような黒い色ではなく、透明なフローライトだった。

《正体を現せ、ベリト!》

 フローの声と共に、そのフローライトが光った。

「う、うわああああああ」

 カーヴェル卿は頭を押さえて叫んだ。彼の姿が見る見るうちに変わっていく。褐色だった肌が白くなり、金だった髪は鈍色へと変わった。
 周囲にいた貴族議員たちは、正気に返ったように目を見開く。

「……そのお顔は、王子殿下……?」
「ドウェイン……様?」

 たしかにその姿はドウェインそのものだった。彼は地面に倒れ込み、うめき声をあげている。そしてぼやりと黒い靄が彼の中から湧き上がる。
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