処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「……あれが、ベリト?」
《うん》

 つぶやきと共に、フローがパペットから出てくる。その姿は、少年のものとなっていた。

「フロー。大丈夫」
《うん。これでもう、ベリトは僕から力を奪えない》

 我に返った貴族議員たちは、自分の胸もとを見て騒ぎ出した。

「ああっ、私の金がっ」

 胸についていた金のブローチが、すべて石へと変わっていたのだ。

「カーヴェル卿は王子だったのか? しかも、金じゃない。これでは、バートランド王のやっていた詐欺と同じではないか」

 貴族議員たちは倒れたカーヴェル卿──ドウェイン王子を責め立てて群がる。
 その間に、黒い靄は薄く広がって、逃げようとしていた。

「フロー、ベリトが逃げちゃうわ」
《僕に任せて。……ルーク!》

 フローは、ルークのそばまで飛び、叫んだ。

《ルーク、落ちた精霊石を取って》
「これか?」
《ベリトの本体に掲げて》
「ああ」
《や、やめろぉぉ》
《お前を封印する。悪しき力よ、わが石の中で眠れ!》

 フローが怒りの声を上げ、精霊石の力を引き出した。
 ベリトのもやの周りに、透明な結晶ができ始め、凝縮し始める。
 やがて、それは真ん中に黒いもやを内包したまま、宝石のように固まった。
 しかし、結晶化させるには、精霊石に蓄えられた力だけでは足りなかったようだ。アメリは途中から力が引き抜かれる感覚がしていた。

「フロー。ちょっと取りすぎ……」
《えっ、あ、ごめん、アメリ》

 謝罪を最後まで聞くことはなかった。まだ完全に体力が戻ったわけでもないアメリは、そのまま倒れてしまったのだった。
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