処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました

「……メリ、アメリ、……起きてくれ、アンリエッタ!」

 懐かしい名前で呼ばれて、アメリはうっすら目を開ける。
 ふかふかのベッドと、手にはあたたかな温もり。視界を埋め尽くすのは、心配そうなルークの顔だ。

(……ついこの間もこんなのあったわね)

 そう思うとおかしくなってくる。アメリが笑ったのに気づいたのか、ルークは不審そうな顔をした。

「俺がわかるな? 体調は? おかしなところは無いか?」

 立て続けに聞かれても答えられない。アメリは何度か瞬きをしてから頷いた。

「お水……ください。喉がカラカラで……」
「ああ。おい、ロバート、水!」
「待ってくださいよ。人使いが荒い」

 ジャイルズ伯爵がいそいそと水を持ってきてくれたあたりで、アメリも我に返った。

「す、すみません! 伯爵様に、水を運ばせるなんて」
「なんのなんの」
「いいんだ。ロバートだから」

 身も蓋もない言い方でルークが一蹴する。

「起き上がれるか?」
「はい」

 ルークはアメリの背中を支えるようにして、起こしてくれた。ジャイルズ伯爵から水を受け取って飲み干すと、体中に染み渡る感覚がした。

「ふー。生き返りました」

 アメリは、張り切りすぎたフローのせいで、力を奪われたのだ。でもこうして皆が揃っているところを見れば、無事にベリトは封印できたのだろう。

「ルーク様はご無事ですか? フローは? ベリトはどうなりました?」
「人の心配をしている場合か」

 ルークは落ち着かなさげに、アメリの顔を覗き込んでくる。
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