処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 そんなわけはない。ただ、自分はメイドだという意識が強いからか、この気持ちが届くものだとは思えなかったのだ。

「私は、ルーク様が……」
「俺は、アメリが……アンリエッタが好きだ」

 かぶせるように先を越されて、アメリは売り言葉に買い言葉のように言い返す。

「先に言わないでくださいよ! 私だってルーク様が好きなのに! ……あ!」

 口を押さえても、出た言葉は戻らない。ルークは口端を上げ、わずかに頬を染めて笑う。

「言ったな。だったらもう遠慮しない。アメリ。俺が好きなら、俺の妻になれ。ずっと、緒にいて、俺の居場所になってくれ」

 最後のひと言は、懇願のようだった。ほんの少しの必死さは、アメリの胸をうずかせる。

〝強い男性って、案外さびしがりなんですのよ〟

 マルヴィナの言葉が、脳裏にちらついた。
 きっとそうなのだろう。この人は、人に弱みなんて見せないようにしていながら、目の端で甘えられる誰かを探している。強いだけじゃない自分を受け入れてくれる居場所を、きっとずっと求めていたのだ。
 アメリは、彼への愛おしさが湧き上がり、その手を握りしめる。

「……はい。ルーク様、私はずっとそばにいます」

 地下の暗い部屋で目覚めた幼少期。メイドとして過ごした日々。どれも不幸だとは思っていない。アメリは人に恵まれ、楽しく過ごしてきたつもりだ。

(だけど、私をこんなにも望んでくれた人は、初めてだ)

 幸せな気持ちが湧き上がる。

「……よかった!」

 ルークはジャイルズ伯爵の目も気にせずにアメリを抱き締め、ほんの少し、弱音を吐く。

「まったく。お前が死んだら、生きる気力がなくなりそうだった……」
「……大げさですよ。ほら、しゃきっとしてください、公王様!」
「しゃきっとねぇ。その前に、確かめさせてくれ」

 言うが早いか、アメリは唇を奪われる。目を見開いたまま、キスを受けるなんて、全然アメリが思っていたファーストキスと違う。

「……温かいな。よかった。生きてて」
「もうっ、ひ、人前でなにをするんですかっ!」

 メイド生活の長いアメリと、騎士上がりのルークの恋は、あまりロマンティックになりそうにない。だけど、これがお似合いなのだろうと思えて、アメリはつい、笑ってしまった。
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