処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 一方、フローの力が回復し、公国の鉱山からは再びフローライトが採れるようになった。
 細々と採掘を続けていた鉱夫だけでは手にあまり、多くの若者に就業を呼びかけている。

「この十年で失った技術者を育てるのが大変だな」
「ええ。でも、きっとやり遂げられます。ここは鉱山の国ですもの」

 アメリが微笑み、ルークはその肩を抱く。
 アメリが巫女姫だということは、あのとき議場にいた貴族議員の噂話で、瞬く間に広がっていった。
 カーヴェル卿という悪魔を祓い、公国の産業を復活させた巫女姫として、評判は盛りに盛られ、アメリ自身は好意的に迎えられていた。

 しかし、問題はもうひとつあったのだ。

「巫女姫様は純潔じゃなくてはならないのでは?」
「しかし、ルーク様は彼女を妻に迎えるつもりらしいぞ」
「それは許していいのか?」
「駄目だろう! やっと復興の兆しが見えてきたのに!」

 これには平民まで加わって大騒ぎだ。
 巫女姫が現れたのはうれしい。が、純潔を失ったら、再び公国は荒れるのではないかと、国民たちは疑心暗鬼に陥っているのだ。
 そんなわけでルークの元には、結婚を考え直してほしいという嘆願書が、山のように届いているのである。

「まいったな」

 ルークが嘆願書を見つめながら、ため息をつく。

「巫女姫は純潔である必要が無いって、どうやったらちゃんと伝わりますかね」

 固定観念を打ち崩すのは難しいのだ。それが間違いでも、正しいと信じた人にとっては正しいのだから。

「こういう時は、マルヴィナの意見を聞いてみよう」
「マルヴィナ様ですか?」
「あいつは本の虫でな。思いもよらない意見を言うので、頼りにはなる」

 そこには信頼が感じられて、アメリは少しだけ嫉妬の芽がわく。
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