あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「場所を借りるぞ」
「はい。今よけますね」

 ソファを陣取っていた側近は、書類をまとめて場所を空けた。

「さあ、アメリ、座って」
「は、はい。……いいんですか?」

 ちらりとルークを見ると、彼は無言のまま書類に向かっている。

「閣下の態度は気にしなくてもいい。あれで耳はちゃんと働いているから」
「はあ」

 アメリは居心地が悪さを感じつつも、ソファに腰掛ける。
 向かいに座ったロバートは、先ほど書いていた書類を読み上げた。

「アメリ・スレイド。年齢は二十。身元保証人はメイド長マーサ・スレイド。仕事経験はこの城におけるメイド業で合っているかな?」
「はい。キッチンメイドや客間メイドの経験もあります。最近はランドリーメイドとして働いていました」
「一通りのことはできるという認識で構わないな?」
「はい」

 ジャイルズ伯爵は、ルークにも聞かせるつもりなのか、部屋中に聞こえる声量で読み上げる。

「……とすると、通常の侍女の給金に少し色を付けた感じになるか」
「いいんですか?」

 侍女の給金は、メイドより格段に高い。

「もちろん、君の能力を見ながらだが、閣下付きとなれば雑用も多岐にわたる。仕事に見合う対価は払わねばならないだろう」
「あ、ありがとうございます!」

 城で暮らしている以上、生活に多くのお金がかかるわけではない。でもいつまで働けるかもわからないのだから、蓄えを貯めれるのならありがたい。

「ところで、その、詳しい仕事内容を教えていただけますか」
「そうだな。衣装係と清掃係を一手に引き受けたと思ってもらえばいい。閣下のスケジュールは私が管理している。一日の始まりに当日と翌日の予定を伝えるから、君は、閣下の予定に合った服を選んで、身支度の手伝いをしてほしい」
「はい」

 それは衣装係の仕事の範疇だ。

「閣下の執務中は、部屋の清掃、衣装類の管理整頓をお願いしよう。時間の空きがあれば、閣下のそばで雑務の処理を頼む。といっても難しいことは頼まない。郵便物の整理や、休憩時のお茶の給仕などだな」

 なるほど、加えて清掃メイドとしての仕事、後半は従者の仕事という感じだ。

「わかりました」
「やってみてできないことがあれば相談してくれ。すぐは無理だが、雑用係を補充することも検討する」

 その言葉にちょっとほっとした。そうであれば、無理になにもかもをこなさなくてもいいということだ。
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