あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「だいたいこんなところか。他に気になることは?」
「いえ」

 アメリが引き下がろうとした時、執務机の方から声がした。

「勤務時間と休日を決めていないぞ」

 声の主はルークだ。確かに耳はちゃんと働いているらしい。

「ああ。そうですな。今はどうなっているんだ?」
「ええと。私は住み込みなので、だいたい朝七時から夜八時まで働いています。休みは必要な日を申告すれば取らせてもらえます」
「は? 全然休んでいないじゃないか」

 ルークは不満そうに言うが、住み込みの使用人は皆似たようなものだ。

「メイドは皆そうです。代わりに、体調が悪い時や用事があるときは、ちゃんと融通してもらっています」

 だから不満はないのだと言えば、ルークは眉間の皺を深くした。

「おい、ロバート。シフトを組んで、週に一度は必ず休息日を作るよう、使用人全員に通達しておけ」
「はっ」
「えっ。いいんですか?」

 驚きが顔に出ていたのか、ルークは皮肉気な表情でアメリを見つめる。

「なんだ? 俺だってそのくらいは休んでいるし、文官たちだってそうだろう」
「でも」
「剣がちゃんと手入れしなければ斬れなくなるのと同じことだ。仕事も、根を詰めすぎるとかえってよくない。頭も回らなくなる。効率を考えれば、ちゃんと休んだ方がいいんだ」

 あまりにも自信ありげに言われるので、アメリは怯みつつも言い返す。

「そうなのですか。でも私の仕事は頭を使うものじゃないですし」
「体もそうだ。使いすぎれば動きが悪くなる。おまえはまだ若いから、わからないだけだ」

 ぴしゃりと言いきられた。言い方がきついので怯んでしまうが、よくよく言われた内容を考えてみると、別に怖くはない。むしろ人道的ないい提案だ。

「まさかそんな働き方が常態化していたとは思わなかった」
「そう言えばメイド長も、いつ捜しに行ってもいましたな」

 ジャイルズ伯爵も腕を組んだ。ルークは立ち上がると、アメリのそばまで歩いてくる。

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