処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「じゃあ、お前の休みの日は俺の休みの日と同じだ。毎週日曜。その日は一日自由に過ごしていい。勤務時間は今と同じでいい。それと、仕事の合間にやることがなくなれば休んでいても構わない。無理に仕事を探すな」
「そんなわけにはいきません」

 給料をもらう立場としては、ただじっとしているのは逆に落ち着かない。

「では、執務室に押しかけてくる貴族令嬢を押さえてくれ。邪魔をされて迷惑しているんだ」
「そ、それは無理があるんじゃ……」

 立場の強い貴族令嬢を、アメリが押さえられるわけがない。

「部屋にいないと言うだけでいい」
「嘘つけって言うんですか?」
「命令だ。つまり職務。お前は職務を全うしているだけで、嘘をついているわけじゃない」
「……そうでしょうか」

 ちょっとすっきりしない。いや、アメリにだって秘密はある。全てをさらけ出して生きていける人間などいない。けれど、言わないのと嘘をつくことは別だ。
 どうにもすっきりしなくて押し黙っていると、ルークがため息をついた。

「じゃあいい。ロバートに取り次ぐといい。断るのはロバート、お前がやれ」
「はあ。まあ構いませんけど」

 面倒臭いなというのが顔に出ている。

「すみません」
「いやいや、俺は君の上司だから。困ったことはなんでも言ってくれ」

 アメリの恐縮に、模範解答のような返事をするジャイルズ伯爵は、絶対苦労性だろう。
 いい人が正しく報われるなら、この世界、つらくはないのだが。得てしていい人は割りを食うものなのだ。

「そのほかに要望はあるか?」
「いいえ。では明日より、そのようにお仕えさせていただきます」

 そもそも給料が、今までに比べて格段に上がる。だとすれば、文句など出ようはずがないではないか。

「下がっていいぞ」

 ルークはそっぽを向いたまま、手で退出を促す。本当に必要以上に女性とかかわろうとは思っていなさそうだ。

「はい。失礼します」

 執務室を出ると、ジャイルズ伯爵が追って来た。

「ああ、待って、アメリ」
「はい?」
「一応、雇用内容を記したものを渡しておこう。メイド長にも確認してもらってくれ」
「はい。ありがとうございます」

 文書にしたためてくれる点で、彼らは誠実であると言える。無理難題を突き付けられたときに、これがアメリを守ってくれるはずだから。

「では明日からよろしくお願いいたします」

 アメリは使用人控室に戻り、勤務表を作成しているメイド長にも確認してもらった。

「待遇は悪くなさそうね」
「ええ。あと、他の使用人もきちんと休みを取るようにとおっしゃっていました」
「週に一度? また簡単に言ってくれるわね。……まあわかったわ。シフトを組みなおさなければいけないわね」

 メイド長はそう言うと、勤務表を見直し始めた。全体を把握し指示を出せるメイド長にやはり変わりはいない。
 ルークの雑用係は自分で頑張らなければならないだろう。

「困ったらちゃんと言うのよ」
「ありがとうございます」

こうして、アメリは正式にルークの雑用係となったのだった。
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