あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 ボーフォート公国は、三百年ほど前に隣国レッドメイン王国の王族のひとりだったボーフォート公爵が興した小国だ。
 本国から多額の援助を得ていて、属国的な立ち位置だったことから、国の最高位は国王ではなく大公で、一般的には公王と呼ばれた。
 国土の大半は山で人の居住地となる平地は狭い。けれど、その山は資源を生み出す鉱山だった。
 鉄鉱石、鉛鉱石などの金属資源も取れるが、最もよく産出されたのは蛍石(ほたるいし)だ。フローライトとも呼ばれるそれは、鉄鉱石と共に熱すると、より低い温度で鉄を溶かすことができるため、製鉄の融剤として用いられる。他国からも需要も高く、輸出品目第一位となっていた。

 さらにフローライトには、宝石としての価値もあった。
 本来は無色透明な鉱石だが、不純物が混じることで様々な色が現れるのだ。
 大公は国を挙げて職人を育成し、ブルー、イエロー、グリーン、パープルなど、様々な色のフローライトの宝飾品が作られた。特に人気が高いのは、光の加減で色を変えるカラーチェンジフローライトだ。あまたの国がそのカラフルな宝石を欲しがり、宝石の価値はうなぎ上りだった。

 鉱物に恵まれた国として、ボーフォート公国の名前が広まってきた頃、当時の王の娘のひとりが、精霊の声を聞いた。

『精霊様は、フローライトがみんなから好かれてうれしいって。だから加護をあげるって言ってくれたの』

 以降、鉱山での事故は激減し、次々と新しいフローライト鉱山が見つかる。
 それも精霊の加護のおかげと、王は精霊の声を聞いた娘を〝巫女姫〟と名付け、純潔を守らせ、精霊に精霊に仕えさせたのだ。
 以来、王の血族の女性に、巫女姫──精霊の声を聞く者が現れるようになった。

 巫女姫がふたり現れる時もあれば、まったくいない時もあったが、精霊の加護は変わらず続き、フローライトは枯れることなく、ボーフォート公国を潤し続けてきた。

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