処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
* * *
 
 アメリの一番古い記憶は、五歳の時だ。
 その頃、アメリはアンリエッタという名で呼ばれていて、母親とふたり、薄暗い部屋に住んでいた。
 そこはどうやら地下のようで、天井付近に明かり取りの窓があったが、ほかに窓らしいものはなかった。
 天井から差し込む光のほかは、ランプがひとつだけ。夜はとても暗かったが、明り取りの窓の近くにフローライトのかけらがたくさん置かれていて、まれにそれが光ることがあった。

「わあーい。綺麗」

 幼いアンリエッタは、無邪気に、その光をとても愛おしいと思っていた。
 母親はフローライトが光る仕組みを教えてくれたが、幼かったのでよく覚えていない。

「アンリエッタはフローライトが好きね」
「だってきれいだもの。昼間も透明でキラキラしている」
「ふふ。そうよね」

 ベッドで上半身だけを起こした母は、パペットを手にはめ、少し低い声色で言った。

「アンリエッタ。気に入ってくれたなら、うれしいよ」
「フローちゃん!」

 母が操るパペットは、フローという名前で、幼いアメリの大切なおもちゃだった。

「どうしてフローちゃんがうれしいの?」
「僕も、フローライトが大好きだからだよ」

 パペットの胸にもフローライトがついていたから、アメリはすぐ納得した。

「そうかぁ。私と一緒!」

 母はパペットを操るのが上手で、まるで生きているみたいに見えた。
 もしかしたら、本当にフローが動かしていたのかもしれないけれど、この時のアメリには、精霊を光として認識することも声を聞くこともできなかったから、フローは母の創作物だと信じていたのだ。
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