処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
(早くマーサさんの所に戻らなきゃ)

 裏口から城に戻ろうと向かった時、レッドメイン軍の鬨の声が聞こえてきた。

(嘘、もう? 早い……!)

 今、城内に戻るのは逆に危険だ。

(どうしよう、塔に隠れる?)

 本来、城門が破られたら、この塔の見張りの兵士が鐘を鳴らして知らせるはずだ。

(すでに逃げたってことね)

 兵士たちにももはや国を守るという思いはないのだろう。
 アメリは一階の貯蔵庫にいったん身を潜めた。
 固く目をつぶり、恐ろしい侵入者たちに見つからないよう息をひそめていると、小さな声が聞こえてきた。

《……うう、たす、けて》

 誰かが助けを呼ぶ声だった。その瞬間、アメリは自身の恐怖よりも助けなければという意思が上回ったのだ。

「誰? どこにいるの?」

 小声で話しかけながら、周囲を見回したアメリは、積み上げられた箱の隙間になにか光るものが落ちているのに気づいた。ボロボロの布切れかと一瞬思ったが、頭がついているのを見て、アメリは目を見開く。

「……え? フローちゃん?」

 近づいて持ち上げると、それは本当に、母が作った少年のパペットだった。綺麗な水色だった服は、泥がついて黒ずんでいたし、胸についていたフローライトもない。髪の毛だった毛糸も擦り切れて長さが揃っていなかった。

「こんなに汚れて……!」

 おそらくは、母の死後、遺品を片付けている際に捨てられたものだろう。

(でも、どうしてお腹が光っているの?)

 疑問に思ったのと同時に、パペットが動いたような気がした。

「え?」
《助けて》

 またもや声がして、アメリは周囲を見渡す。

《ここ……》

 親指にかけられた力に、アメリは目を見張った。信じられないことだが、パペットが親指をぎゅっと握ったのだ。

「……あなたなの?」

 信じられないことが起きている。でも、確かに触れられているし、アメリには声が聞こえたのだ。信じるよりほかない。
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