処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 そんな公国に影が差したのは、二十年前だ。
その年、巫女姫が失踪した。巫女姫が不在の期間は、災害が起こりやすいが、その年もそうだった。
採掘現場での事故が多発し、これまでは掘ればすぐ出てきたフローライトが、なかなか見つからなくなった。
 人々は、消えた巫女姫を心配していたが、行方は知れぬまま十年が経ってしまう。
 そしてその年、決定的な事件が起こった。新たに採掘したフローライトが、ひと晩経つと真っ黒に変質してしまうという怪現象が起きるようになったのだ。

『きっと巫女姫になにかがあったか、精霊を怒らせてしまったに違いない。ここはもう呪われた土地なのだ』

 人々はそう思い、もう産業としては成り立たないと、フローライトの採掘を諦めた。
そうして、国の主力産業は鉄鉱石の採掘へと変わったが、採掘量はフローライトに比べれば大幅に少なく、当然利益も上がらない。国民の生活は一気に悪化した。

 当時の王、バートランドのもとには、援助を求める嘆願書が山のように積み重なったが、彼はなんの対策も行わなかったのだ。
 一時、王家所有の鉱山で金鉱石が発見され、金細工として多く輸出されたこともあったが、二年ほど経つと、今度は金の変色が問題となり、ボーフォート公国の鉱業は、すっかり信用を失ってしまった。
 それからは、蓄えを取り崩していくだけの日々だ。

 国民の生活が立ち行かなくなる中で、まだ余裕のある者から順に、隣国であるレッドメイン王国へと流れていった。
 しかし彼らは難民であり、支援を必要とする。
 やがて受け入れきれなくなったレッドメイン王国は、難民たちの代わりに王権の交代を目的として軍を編成した。

 指揮をとるのは、騎士団員でもあった第三王子ルーク。
 彼は、彼独自の魔法をまとわせた剣を使い、ボーフォート公国へと攻め入った。
 ルークの剣が火柱を上げたとき、恐れをなしたボーフォート大公はあっさりと降伏し、公国の王は挿げ替えられたのである。

 これが、三年前の出来事だ。
 わずか一ヵ月で開戦から終戦まで終えたこの戦争は、二国間でひと月戦争と呼ばれている。
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