処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 その後アメリは、王都の端に開設された避難所に、避難民として暮らしていた。
 戦争はレッドメイン王国軍の勝利で終わり、軍を率いていたルーク王子が、ボーフォート大公位を継ぎ、ボーフォート公国の王となることが決まった。
 とりあえず危険は無くなったため、避難所は閉鎖されることになり、猶予期間のひと月の間に、アメリは身の振り方を決めなければならなかった。

(身の振り方といっても、働くよりほかないのだけど)

 親がいないアメリに、頼れる人はいない。

(マーサさんは無事だったのかしら)

 マーサは地下室に皆を逃がす役割をしていたから、死んではいないだろうと思うが、心配ではあった。

(とにかく私は私で、生き延びないと)

 メイドをしていた経験から、働くことに抵抗はない。アメリは日銭を稼ぐため、食堂で給仕として働き始めた。
 そのお客の会話で、ボーフォート王家の人間はすべて処刑されたと聞かされた。
 最初はひと事のように聞いていたが、巫女姫だというならば、母は王妹のはずだ。つまりアメリにとっては伯父一家が処刑されたということになる。

(もしかして、私も王族だとばれたら、殺されるの?)

 アメリは公王一家のことをほとんど知らない。だけど親族だと思えば、やはりその死に胸は痛む。

《アメリは、城に戻らないの?》

 フローの問いかけにもアメリは答えられない。

「お城は危ないんじゃないかしら。私の素性を知られたら……」
《でも、僕は城に戻りたい。失った精霊石を見つけないと、この国は廃れていくばかりだもん》

 しょん、とパペットに項垂れられると、アメリも強くは出れない。
 フローが自分の力を取り戻したいと思うのは当然のことだ。
 しかし、この国を守り続けてくれた精霊と自分の命どちらが大切かと言われると、アメリには選ぶことができない。

「……少し考えさせて」

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