処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 それから数日経ったある日、マーサが避難所を訪れた。

「アメリ!」
「……マーサさん?」
「よかった、無事で」

 有無を言わさず抱き締められて、アメリの目に涙が浮かんだ。
 ローズマリーが死んで、マーサはようやく重い職務から解放されたのだ。
 その後もアメリの母親代わりとなり世話はしてくれたが、しょせんは他人の娘だ。アメリを見限っても誰にも責められはしなかったのに、まさか探してくれていたとは。

「生きているなら、どうして連絡してくれなかったの」
「ごめんなさい、心配かけて」
「王都にある避難所、全部回ったのよ。ここが最後だったの!」
「私、捜されているなんて、思わなくて」
「馬鹿なことを。だったら覚えておきなさい。私にとって、あなたは娘そのものだって」

 張っていた緊張の糸が切れたように、アメリはボロボロと泣いた。普段鉄面皮と言われるマーサも泣いていた。
 この世で信じられる人がいるなら、それはマーサだと、アメリはこの時思ったのだ。
 落ち着いてからひとしきり話をする。マーサは今も王城でメイドをしているらしい。

「ルーク様はいい人だわ。侵略されたという人もいるけれど、城内の秩序は以前よりずっといいの。私、メイド長に就任したのよ。ねぇ、アメリ。良かったらあなたも戻ってこない?」
「でも……」

 アメリは迷っていた。城での暮らししか知らないアメリにとって、あそこは帰る家と言われればそうだが、同時にアメリから母を奪った場所でもある。

「もしアメリを守ってくれる人がここにいるのなら、無理強いはしないわ。でも、そうじゃないのならば、年頃のあなたがこういったところで暮らすのはリスクも多いわ。どう?」

 確かに、王都とは言え、端の方は治安が悪い。

《城に戻ろう、アメリ。僕も精霊石を探したい》

 フローがそっと、アメリに耳打ちする。
 正直迷いもあったが、アメリは頷いた。
 もう伯父も従兄たちも処刑されていないのだから、アメリが王妹の娘だということに気づく人はいないだろうと半ば無理やり納得する。

「働くか決めるのは……様子を見てからでもいいですか?」

 返事と同時にマーサにぎゅっと抱きしめられた。

「ええ。もちろんよ。とにかくよかった。これでローズマリー様に顔向けできるわ」
「マーサさん……」

 マーサにとって、母という存在はどんなものだったのだろう。面倒な存在ではないのかとアメリは勝手に思っていたが、そうでもなかったのかもしれない。
 アメリは彼女の献身に感謝し、共に王城へと戻った。
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