処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
城内には、おそらくルークと共に来たのであろう見たことのない貴族が多く居た。しかし、変わらぬ古参貴族もまた多く居る。
「貴族は粛清されなかったのですね」
「ええ。この国を生まれ変わらせるのは難しそうよ。でも古参貴族も随分財産は没収されたから、昔ほど傲慢でもないわ」
かつてはメイドたちにちょっかいを出してきていた兵士たちも、すっかり厳しくしつけられていて、王城内の揉め事はほとんどなくなっている。
「どう? 素晴らしいでしょう? これなら、あなたも安心して働けるんじゃないかしら」
「そうですね。……でも」
アメリは一度口ごもった。
「私が巫女姫の娘だと知られたら、殺されたりしませんか?」
マーサは驚いたように目を見開いた。そして困ったように目を細め、アメリの頭を優しく撫でる。
その仕草が、なんだか懐かしくて、切ない気持ちがあふれてくる。
「知ってたのね。……まあ、わかるわよね。巫女姫の名前は、調べれば書いてあるもの」
「……どうして、母様はあんな所にいたの? 私を産んだから?」
巫女姫には純潔が求められると、アメリは教わった。だとしたら、アメリがあそこに母を閉じ込めたのだともいえる。
「そうね。それは否定できないけど。ローズマリー様はあなたを本当に大切に思っていたのよ。それだけは忘れないで」
アメリは、唇を噛み締めながら頷いた。
「もうローズマリー様のことを知っている人間は、私しかいないから、あなたが巫女姫の娘だと気付ける人はいないと思うわ。あなたは父親似なのか、外見の印象も違うし。似ているのは髪の色だけど、普段は結んでいるものね」
アメリは父のことも知らない。いないのだから亡くなったのだろうが、どんな人だったのかも母は教えてはくれなかった。
「マーサさんは、私のお父さんのこと、知ってる?」
彼女は困ったように笑う。
「ローズマリー様の直属の護衛だったの。背が高くて、優しい力持ちだったわ。幽閉されたときにはもう、姿が見えなくなっていたけれど」
「そう……じゃあもう、生きてはいないのね」
アメリは一瞬落ち込んだが、首を振ってその考えを追いやった。
だったらなおさら、自分の家族はマーサだけなのだ。マーサが望んでくれるなら、そばにいたいと思った。
「……私、ここで働きます。よろしくお願いします」
「よかった。心配しなくても、私がついているわ。いずれあなたが恋をして、誰かと一緒になるその日まで、私があなたを守るから」
マーサの言葉に救われた気持ちになりながら、アメリは使用人として、城で暮らすこととなった。