処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 フローも満足げだ。彼としては、精霊石を探すのに城内にいる方が便利なのだろう。
彼は基本的にはパペットの中にいて、アメリからの力の補給を求めてくる。
 詳しくはわからないが、フローは長らく悪しき力によって力を奪われ続けているらしい。

「その悪しき力ってなんなの?」
《うーん。まだ確証がないから言えないけど。フローライトが真っ黒に変わるようになったのは、その悪しき力のせいだよ》

 ボーフォート公国の鉱業を最終的に駄目にした怪現象だ。

「なんか怖いわね」
《とにかく、怪現象を解くためにも、僕は精霊石を見つけなきゃ》

 アメリにはわからないことだらけだが、フローを応援することが国のためになることはわかった。
アメリは、メイド服のエプロンに常にパペットを入れ、仕事をしながら、精霊石を探す手伝いをすることにした。

「見つかるようなへまだけはしないでね。私、処刑されるのは嫌だからね」
《わかっているよ。アメリこそ、迂闊な動きはするなよ》

 アメリが巫女姫の娘だということは、フローとマーサだけが知る秘密だ。
どうかこれからも、誰にも知られることなく、穏やかに暮らしたいとアメリは願っていた。

* * *

 あの日の願いからは、ずいぶん遠いところに来てしまったと、アメリはぼんやりと思う。

「……まさか、ルーク様の雑用係になるなんてなぁ……。大丈夫かしら、私の命」
《まだ言ってる。諦めなよ。ルークはそんなに悪い奴じゃないと思う。少なくとも、アメリみたいな若い女の子をいきなり処刑するようなことはないと思うよ》
「なにを根拠に! 目つきとか鋭くてすんごい怖いんだよ?」
《君の伯父さんより醜悪な男なんて、なかなかいないよ》

 感情のない声でそっけなく言われたので、余計辛辣に聞こえ、アメリはひやりとする。
 でも確かに、国民が革命を望むほどなのだから、よほどの悪党ではあったのだろう。
 アメリは、伯父である王とは話したこともない。実の妹を閉じ込めた地下室に、彼が来ることは一度だってなかったのだ。

「……そうよね。まあ、決まったものはどうにもならないしね。頑張るしかないかぁ」

 吹っ切るようにそう言って、アメリはベッドに横になった。
 フローはふわりと浮いたままアメリを見ている。

《そうだよ。これからは今まで行けていなかった部屋にも入れるし、僕は俄然やる気が出てきた》
「よかったわね。それにしても今日は疲れたー」

 思いがけないことがありすぎて、心だけじゃなく体も緊張していたみたいだ。
 布団の温かさに、少し気持ちがほぐれてきた。すぐに眠気が襲ってきて、アメリはそのまま目を閉じた。

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