処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
雑用係のお仕事
昨晩、寝落ちしてしまったアメリは、早朝に目が開いた。
フローは、パペットの中でまだ眠っているようだ。早々に身支度を整えたアメリは、寝たままのフローをエプロンのポケットに入れ、部屋を出る。
まだ仕事に向かうには早く、アメリは少し散歩することにした。
使用人棟は、騎士団の詰め所にも近い。何気なく鍛錬所の方を見ると、剣を振るっている音が聞こえた。
(こんな早朝から、訓練?)
こっそりと覗いてみると、そこに居たのはルークだった。
「はっ」
訓練用の打ち込み人形に、木刀で切りつけていく。そのたびに、ぼこっという痛そうな音が鳴り響いた。
ルークの動きは、無駄が無くて綺麗だった。額を伝う汗も気にならないように、一心不乱に剣を振るう姿は、控えめに言っても格好いい。
(わあ、すごい)
ルークは動きが早い。打ち込み人形は二体あったが、ほぼ同時にあたっているんじゃないかという感じで音が聞こえてくる。
(剣筋が見えないわ)
アメリは剣術に詳しいわけじゃないが、ルークがすごいのはわかる。
(あれ)
皮膚に、ピリッとした感覚があった。と同時に、ルークの木刀から火花が散る。
打ち込み人形を斜めに切りつけたのと同時に、木刀が一気に燃えた。
「きゃっ」
アメリは思わず声を上げてしまった。すると、ルークがこちらを睨んでいるではないか。
「す、すみません!」
慌てて頭を下げ、ルークの顔を見ないまま走って逃げる。
「すごい、火が出てた」
《あれ、魔法だな。魔法剣ってのは珍しい》
フローの声がする。どうやら、途中から目を覚ましていたらしい。
「魔法使いと剣術使いって、真逆の存在だと思ってた、私」
《普通はそうだよ。魔法を使える人間は王族と近親者くらいしかいないし。ルークは随分珍しい存在なんだな》
フローが感心しているくらいだから、相当珍しいのだろう。
早朝から訓練しているところを見ても、ルークは結構な努力家なのかなと思う。
(邪魔して、悪かったかしら……)
立ち止まり、アメリは呼吸を整える。いきなり走ったからか、なかなか動悸が収まらなかった。