あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「議会では服装の決まりなどはあるのですか?」
「いや、ない。しかし、他の貴族議員の服装が思いのほか派手なので、負けぬような装いを選んでもらいたい」

 アメリは、王城に出入りする貴族たちのことを思い出す。
 前王朝時代、いっとき金細工がもてはやされたことがある。
 あの時、貴族たちはこぞって金糸の入ったフロックコートを身に着け金細工のブローチをつけていた。
 金はもともとの価値がフローライトよりも高いので、貴族たちはいったいどこから購入したのかと疑問に思ったものだ。
 それはさておき、その時代に購入した服だと思われる、ギラギラとした服を着ている貴族の数は多い。

「……あれに負けないように、ですか?」

 負けないように派手にしようと思ったら、赤や黄色の目立つ色を使った服を選ぶしかない。しかし、ルークは、顔立ちこそ整っているが、髪は黒く全体に落ち着いた印象がある。あまりに奇抜な色とは相性が悪い。
 アメリは少し考え、「まずは手持ちの衣装を見せていただいてもいいですか?」と尋ねる。

「ああ、では衣装室へ行こう」

 二階の執務室から、王族や客人向けの私室が並ぶ三階に向かう。昨日シーツ交換の時に入った部屋の隣だ。

「衣装室はこちらだ。隣のルーク様の部屋とは続き間となっている。衣装室の鍵はこれだ。君には衣類の管理もしてもらうから、自由に出入りしていい」
「え? いいんですか?」

 就任したばかりの雑用係をそんなに信用して大丈夫なのだろうか。もちろん、盗みなどはする気はないが。

「君は雑用係だからな。もちろん、変な動きをしたら即刻斬首刑だ。わかっているだろう?」
「も、もちろんです」

 アメリは手のひらに乗せられた鍵をぎゅっと握る。たしかにメイドは主人がいない間も掃除などで部屋に入ったりするが、たいていふたり一組とかで、単独では普通ない。

(いいのかな。こっちが落ち着かないわ)
「では、失礼します」

 衣装室といっても、普通に人が暮らせそうな広さの部屋だ。
 壁一面にハンガーをかけられるようになっていて、トルソーも三体ほど置かれていた。
 とはいえ、持っている衣服の数は予想より多くなかった。
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