あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 触ってみれば手触りがよくて軽いため、厳選された生地が使われていることはわかるが、余計な装飾が無い。色も、黒や濃紺、濃茶といった地味なものが多い。

(極端に地味ね。ルーク様は髪色も濃いから、全体的に沈んでしまいそう)
「地味だろう?」

 ジャイルズ伯爵が身を乗り出すようにして聞いてくる。
 そんな彼は、えんじの貴族服を着ている。襟元を彩るネッカチーフがおしゃれだ。

「まあでも、議会とは討論するところでしょうし、ルーク様はお顔立ちがしっかりしているので似合わないことはないのでは……」
「そうはいっても、古参貴族らに軽んじられるのも困るのだ」

 それはそれでもっともではある。この手持ちのカードで華やかさを演出しなければならないということか。
 よくよく衣裳部屋を調べていくと、奥の方には派手な色の式服やフリルのふんだんについたシャツがある。

「こちらは選ばれなくて奥に追いやられた服ですか?」
「そうだな。せっかく作ったのに、ほとんど着ていないと思う」
「普段、ルーク様はアクセサリーなどをつけられるんですか?」
「いいや。当初は衣装係がいろいろ準備してくれたのだがな。ルーク様の好みとは合わなかったようで、三日で辞めさせられてしまった」

 昔はちゃんと衣装係もいたらしい。従者といい、つけてもつけても辞めさせられてしまうのだろう。
 とすれば、アメリが雑用係でいる期間もそう長くないかもしれない。

(なら、思い切り好きなようにやればいいか)

 そう思えば気負いも無くなる。なんなら早く辞めさせられたいくらいだ。
アメリは奥のアクセサリー箱の中を確認する。中には、様々な色の宝石が入っていた。
ポケットのフローが動いたのもわかった。この中に精霊石が無いか確認しているのだろう。

「では……こういうのはどうでしょう」

 アメリが取り出したのは、フローライトのブローチだ。二色が帯状に現れる希少なバイカラーフローライトで、薄い水色の中に濃い紫色のラインが描かれている。
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